第七章

第147話 ミリアのポテンシャル






「ふっ!」

「やあ!」

「ん」



キンキンッ、ガギィンッ!と連続して、穏やかな日が差す草原に甲高い金属音が響く。

俺が見守る前で剣と剣、そして拳を交わすのは、ミリアとイナリ、クロの三人だ。






ミリアとリーンと主従契約を結んでから数週間が経った。

家に来てからはこうして、イナリと共に毎日強くなるための特訓をする事がミリアの日課となっていた。

日々、クロにしごかれては立ち上がりしごかれては立ち上がり。

全ては故郷を滅ぼした魔王を倒すために。

その根性は見習いたい程である。


ちなみに戦闘スタイルは俺と同じ片手剣のアタッカー。

魔法は適性が全くと言って良いほど無いので使えないものの、自身の身体能力の強化+武器への付与などで鬼のように強くなる。

ここまで適性が無いってのもおかしな話だが………………せめて魔力量が人の数倍はあるのが救いだろう。

自強化で格上の相手とも対等に渡り合えるようになる。


そして、さらに恐ろしいのがミリアのポテンシャルの高さだ。

現在は身体強化ありミリア=イナリ(身体強化なし)と言ったところ。

しかし、このまま順調に実力を上げていけば、肉体の成長も相まってかなりの期待が持てる。

Sランク冒険者も夢じゃないだろう。


さらにさらにだ。



ミリアには唯一無二のスキル、〈無効貫通〉がある。



俺もミリアのステータスを見た時にかなり驚いた。

他にも自身へのバフを中心とする多くのスキルや〈魔法剣〉などが参列する中、全く見覚えのない〈無効貫通〉というスキルを見つけたのだ。

効果もびっくり。

とてつもなかった。



・〈無効貫通〉


相手の魔力、肉体の強度、物理的障壁など、あらゆるものを無視して敵にダメージを与えられる。




つまり、ミリアの前ではどれだけ防御力の数値が高かろうが、魔力を高めて物理的、または魔法的に防御をしようが、盾や剣によって攻撃を防ごうが。

どんなものでも真正面から一刀両断して意に返さないのだ。

こんなのまさにチートだ。

そこら辺の魔王どころかどんな相手でも敵無しだろう。


しかし、実はミリア、このスキルをまだ完璧に使いこなせていなかった。

と言うか現段階では使用不可能と言った方が正しいだろう。

その理由として、まず一つ目にそもそも念じてもほとんど発動しないという点。


どういう訳かどれだけスキルを発動しようとしても、その効果が一切見られないのだ。

今はごくまれに数秒発動する程度。

こんなの実践で使えたもんじゃない。



そしてもう一つは、先程も言ったが発動時間が安定しない事だ。


どれだけ発動時間があるのか。

クールタイムは?

また、それは鍛錬によって伸びるのか。

まだ何も検証出来ていない。



あ、あと何かしら発動条件があるのかもしれない。

これだけ強力なスキルだ、何か代償があっても不思議ではない。


まぁ使えないものは仕方がないので、今はとりあえず基礎的な能力の向上に努めている。

頑張ってスキルが使えるようになっても、敵に攻撃が当たらなかったら宝の持ち腐れだからね。


その間に、俺は俺で色々と情報収集をしていた。

"破邪はじゃの魔王"についてだったり、〈無効貫通〉についてだったり。




「ん」

「きゃ!?」

「はわぁ!?」



クロの姿が一瞬掻き消えたかと思うと、次の瞬間にはイナリとミリアが同時に倒されていた。

地面に仰向けに寝っ転がり、へとへとになった二人は荒い息を繰り返しながら空をあおぐ。



「はふぅ…………疲れましたぁ………」

「クロ、強すぎよ…………」

「ん、当たり前。でも、二人も良くなってきてる」



よくあれだけ動いてクロはけろっとしてられるな……………。

どんだけ体力あるの?

ダガーを腰の入れ物に収めると、クロはしっぽの先をぶんぶん振りながらあぐらをかいて座る俺の元に駆け寄り、すっぽりとその中に収まった。

無言で何かを求めるような上目遣いに急かされて頭を撫でてやると、「んぅ〜………」と気持ちよさそうな声を漏らす。


うーむ。

強いし可愛いし、うちのクロは最強では?

いやまぁそれは皆に当てはまることだけども。



「うぅ………ご主人様、私は膝枕を所望しますぅ………」

「ここまで自力で来れたらいいよ─────って速!?」



そう返事をした途端に、ばびゅん!と効果音が付きそうなほど速くこちらにやって来た。

ざ、残像が残っているだと…………!?

欲望の力恐るべし。


ちゃっかり左側にズレていたクロに対して、右側の太ももに頭を乗っけてご機嫌な様子のイナリの首には、皆とお揃いの漆黒の首輪が付けられていた。

言わずもがな"隷属の首輪"だ。


実はこれ、少し前にイナリが知り合いに特注したやつらしい。

ダグラスさんが行っていた特別な手順を九割方こなす事で、主人が奴隷に首輪を付けて血を垂らすだけで効果が発動するという優れもの。

法的にスレスレなので販売は出来ないが、今回は古くからの知り合いの頼みだと言うことで内緒で作ってくれたそうだ。


これの制作には術式の都合上ちゃんとした奴隷商人もたずさわっており、もしもの時の安全対策もバッチリ。

前からずっと羨ましいと思っていて、やっとついこの前届いたのだとか。

便利な通販かな?

残っていた箱を見てそう思った。

ちゃんとラッピングされてたし……………その知り合いって一体何者なのだろうか。



「朝から頑張ってますね」

「だね。アイリスは買い物?」

「はい、卵と野菜が少なくなっていたので…………」

「あっ、それなら私も行くわ!」



向こうで死んだように寝っ転がっていたミリアがガバッと体を起こす。


最近のミリアの日課その二。

かなりの頻度で買い物ついて行って村に降りる。

あの性格なので村人との付き合いが心配だったのだが、どうやら上手くやっているらしい。

この前ギルドで聞いた限りでは活発で微笑ましい孫のように扱われているそうで………………どこが?と思ってしまった俺を許して欲しい。


試しに聞いてみた。

もしミリアが俺に接するような当たりの強い子だったら?と。

冒険者達(男)はむしろウェルカムらしい。

ダメだこの村変態しかいねぇ。


ちなみにそいつらは女性冒険者達にボコボコにされてました。




そんな事は置いておいて、次はミリア本人に聞いてみた。

なぜ俺にだけあんな接し方をするのか、と。

本人いわく、「何言ってんのよ、あんなのを見せるのは特別なあんただけだわ。だから黙ってサンドバッグにされてなさい」、だそう。

特別扱いされているのに全く嬉しくないのはなぜだろう。



リーンも既に新しい奥様として主婦層に名を広めてるらしいし……………二人揃ってコミュ力お化けめ。



「しゃあミリアさん、行きましょっか♪」

「はい!」

「えへへ、じゃあ私も………………」

「イナリはクロと鍛錬の続き」




村の方へ向かうアイリスとミリアの後ろで、イナリも当たり前のように二人について行こうとするも、がしっとクロに肩を掴まれ無慈悲にも強制連行されて行った。




「いやああああああ!一人でクロさんの相手をするのは勘弁ですぅぅぅーーーー!!」

「頑張れ残念キツネ」

「あべんぬ!?」




残念キツネが奇怪な悲鳴を上げながら、綺麗な放物線を描いて空高くぶっ飛ばされた。





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