第121話 リーン
「ご馳走様でしたぁ……………」
「お粗末さま。いい食べっぷりだったね」
「あぅ…………す、すみません、脇目も振らずがっついてしまって…………」
「いやいや、むしろ美味しそうに食べて貰えて嬉しかったよ」
お腹も満たされて少し冷静になったのか、少女は頬を赤く染めて気まずそうに目を逸らす。
「……………デザートあるけど………」
「っ!食べます!」
しかしデザートと聞いた途端、先っぽがハート型になった悪魔のようなしっぽがピクリと反応して、フリフリ揺らしながらそう即答。
あはは、言うと思った。
俺は早速【ストレージ】からカスタードパイもどきとコーヒーの粉を取り出し、適当なサイズに切ってから少女に渡した。
コーヒーは最初は苦いと飲みにくいと思ったので、ミルクと砂糖をマシマシにしたやつだ。
「〜〜〜♪」
どちらも口にあったようで少女はご機嫌な様子でパクパクとパイを口に運ぶ。
本当に美味しそうに食べてくれるなぁ、この子は。
俺も自分の分を取って一口かじる。
……………………うむ、我ながらなかなか良い出来。
初めて作ったけどこれはこれでありだな。
時々こっちの世界には前世にあった食材が無かったり、あるけど名前が違ったりして見つけるのにも一苦労する。
そのため今回も色々代用品を使って作ったんだが……………昔食べた母さんのカスタードパイと、かなり
まぁもちろん改良の余地はありまくりだ。
どう頑張っても、母さんの味を完全再現とはいかないんだよね。
おふくろの味は偉大ってことだ。
「ああそうだ、まだ自己紹介をしてなかったね。俺はマシロ。一応冒険者だ」
「…………!もぐもぐ、ごくっ。…………こちらこそ助けていただいたのに名も名乗らず…………。私、リーンと申します」
少女は慌てたようにパイをコーヒーで流し込んで、ぺこりと頭を下げた。
リーンか……………。
「リーンは…………吸血鬼かな?」
「えっと、半分はですね。私は吸血鬼とサキュバスのハーフなんです」
「へぇ、珍しいね」
と言うのも、何を隠そう吸血鬼とサキュバスはライバル的な立ち位置なのである。
"的な"、とあるように別に国ごと敵対している訳でも因縁の相手という訳でもない。
ただ、どちらの種族も性質上他種族、主に人族との関わりが不可欠なのである。
吸血鬼は血を吸う相手、サキュバスに関しては言わずもがな。
そのため縄張り争いではないがライバル意識を持つ者も多く、敵対的な考えをする者も居る聞いていたが…………。
やっぱりそんな人ばかりではないらしい。
というか今は共存派の方が一般的らしいが。
「すんすん………マシロさん、どこか怪我をしました?」
「え?あ、ああ、よく分かったね。実は料理する時にちょっと
目ざとく血の匂いを察知したらしいリーンが、鼻をすんすん鳴らして心配そうな顔をする。
大丈夫大丈夫、全てはあんな包丁をくれた剣神さんが悪いから。
『切れ味が良すぎる包丁』……………前、剣神さんが遊びに来た時に貰ったのを思い出して試しに使ってみたら、さあ大変。
ネタかと思いきやマジで切れ味が良すぎてびっくりした。
まさかどんなもんだろう、と思ってちょっと触っただけで指先が切れるとは……………。
しかも傷の治りも遅いし。
危なすぎんか?
そこら辺の剣より切れ味いいって、これ。
まな板ごとパッカーンした時は冷や汗ダラッダラだった。
リーンが寝てて本当に良かった。
くれた剣神さんには申し訳ないが、こんな物は一生封印案件だ。
「(じゅるり)」
「………………ど、どうしたの?」
あまりにも衝撃的すぎる回想に改めて頬を引き
がしっ、と左腕を掴み、その小ぶりな鼻に近づけてすんすんと匂いを嗅いだり見回したり。
頭上に"?"を浮かべながらその様子を見ていると、不意に上目遣いで見上げるリーンが恥ずかしそうに目を背け。
「……………あ、あの、一度だけでいいんです。一度だけ…………血を舐めさせてはいただけないでしょうか………」
「そうか、吸血鬼だもんな………。うん、いいよ」
「っ、ありがとうございます!」
ぱぁ………!と一気に頬をほころばせる。
バンソーコーを丁寧に剥がし、
あれ、まさかの
てっきり指ですくって舐めるのかと…………。
指を包んだねっとりと生暖かい感触に、思わずビクリと肩を震わせてしまう。
むしろ引っ込めなかったのを褒めて欲しい。
………………なんと言うか、凄くえっちかった。
耳まで
否。
ガバッ!と顔を上げたリーンの瞳はキラキラ輝いており、俺をじっと見つめて離さない。
若干気圧されて引き気味の俺はさておき、うっとりとため息を漏らしながら胸の前で手を組むと。
「やっと…………やっと出会えました…………!マシロさん………いいえ、旦那様!」
「──────────は!?」
だ、旦那様!?
突然何を言い出すんだこの子は…………。
唐突かつ衝撃的すぎて、たっぷりと間を開けた後でも驚きのあまり間抜けな声しか出なかった。
しかし、そんな事は一ミリも気にしていないらしいリーンは、グイッと近寄り、俺の手を取る。
「旦那様、血を吸っても良いでしょうか?」
「え!?ま、まぁいいけど、旦那様っt」
「本当ですか!では、いただきます」
「おふぅ」
色々聞きたいことは満載だが、首筋に噛み付くと同時に押し付けられた胸に思考の全てを持ってかれた。
ふよんふよんしてる……………。
下手すりゃアイリスやイナリより大きいんじゃ………………っていかんいかん。
……………まぁ、色々聞くのは後でいいか……………。
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