第120話 荒野で夜ご飯







ゼグラルとかいうマッドサイエンティストを倒した俺は、傷だらけの少女を連れて開けた荒野へと移動していた。

氷片はその場に放置したのでどうって事はなかったが、安心したのか気絶してしまった少女を運ぶのがとても大変だった。

重くはないんだけど、露出度が高いどころの話じゃないビキニアーマーを着ているにも関わらず、無防備な寝顔まで見せられた俺の心情も考えて欲しい。

色んな意味で、俺が誰彼構わず襲うようなろくでなし男じゃなくて良かったよ本当に。


起こさないようにそーっと運び終えた後は、【ストレージ】にしまっていたキャンプ用品を取り出して設置し、魔物よけのお香を炊いたら一段落。

今は装備を解除して、くべられた木材がパチパチッ、と音を鳴らす様子をぼーっと眺めていた。




……………………本当は王都か家に一度転移して、ちゃんとした医者に見せるつもりだったんだけどなぁ。


数時間前の事を思い返すが、いまだ原因は分からない。

なぜか少女を抱えて転移魔法を使おうとすると、上手くいかなかったのだ。


場所を変えてもダメだったし、ためしに少女を離して一人で転移しようとしてもダメだった。

座標が分からない訳でもなく、ただ転移する寸前にノイズのようなものが走って中断されてしまう。



まさか俺、転移魔法を没収された……………?




まぁ使えないものは仕方ないので、首を傾げつつ少女を治療し、今に至る訳だ。

回復魔法+手作業の処置によって痛みは消え、脈や呼吸も安定してきたから時期に目を覚ますだろう。




「………………ん…………んん………」


「お、噂をすればってやつか」




簡易的な枕に頭を預けていた少女のまぶたがふるふると動き、やがてゆっくりと開かれた。

焦点の合わない瞳がぼーっと夜空を見上げる。

まばたきを繰り返すうちに、次第に目が鮮明さを取り戻して少女がガバッ!と起き上がった。

少女は自分にかけられていたタオルケットを呆然と眺めると、続いてき火の明かりにつられてこちらを向いた。

俺を見つめるオッドアイに驚きの色が混じる。



「おはよう。傷は痛くない?」

「え?……………あ……は、はい」



言われて初めて気がついたらしく、包帯の上から体をあちこち触っては傷や痛みが消えていることに驚いていた。

よしよし、後は体に血さえ戻ればいつも通り動けるだろうね。

という訳で。



「はいこれ、ダエ豆とサンダーバイソンのレバー入りスープ。貧血によく効くから、まずこれを食べてね」

「えっと、あ、ありがとうございます……………」



まだ混乱しているのか、差し出された器をあわあわしながら受け取り、そのまま一度固まってしまった。

が、すぐに漂ってくる美味しそうな匂いに負けたお腹がぐぅ〜と悲鳴を上げた。



「い、いただきます……………」

「どうぞー」



女の子の顔はそれはもう真っ赤である。

微笑ましいのぅ。

スプーンですくったにごった液体を前にゴクリと喉を鳴らし、目をつぶって"もうどうにでもなれ!"と一気にくわえ込む。


途端に、羞恥心で縮こまっていた体が弛緩しかん

少女は無言のまま必死にスプーンを動かし、ものの一分程で器一杯に入っていたスープを飲み干した。

うむ、気に入ってくれたようで何より。

良い食べっぷりで作った側としては嬉しい限りだ。



「おかわりあるけど、いる?」

「っ、はい!」



空になった器を悲しげに見つめていた少女に微笑みながら声をかけると、かなり食い気味に返事が返ってくる。

器を貰ってスープをよそい、その様子を目をキラキラさせて見ていた少女に差し出す。

それを嬉々として受け取ると、またニッコニコでスプーンを動かす。



「パンはもう少しで焼けるから、ちょっと待っててね」

「(こくこく!)」



口いっぱいに幸せを頬張り、表情を緩めた少女がこくこく必死に頷く。

その視線はすでに焚き火の上で焦げ目を付けたパンに釘付けだ。

少し心配してたけど、食欲旺盛で元気いっぱいそうで良かった。







それから四、五十分ほど経って少女の食事タイムは終了した。

……………………ちなみに、最終的に食べた量はパンとスープほとんど鍋一つに加えて、先程討伐したブラックボアの焼肉を丸々一頭分、昨日食べたカレーもどきの残りなど。

これ本当に一人で食べたの?と疑いたくなるレベルだ。


この華奢きゃしゃな体のどこに入ってるんだろうか、あのとてつもない量。

下手すりゃ俺達がいつも食べてる一食分より多くないか…………?

まぁそんだけお腹がすいてたってことだろう。

俺もついつい食べてる姿が可愛くてどんどん食材を出してしまった。



明日、胃もたれが凄くなってないかだけが心配だ。





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