第119話 魔王ゼグラル





背後から、なんとも神経を逆撫さかなでするような気持ち悪い声が聞こえてきた。

とんでもなく魔力の気配だ。

俺がその存在に気がつくと同時にそれは動き、振り向いた俺の肩に手を置く。




「あれは自信作だったんだが、まだ改良の余地はありそうだね。……………で?あれは君がやったのかい?」




首に短剣を当てて、にやりと口角を釣りあげながら質問してきたのは………………………こう、なんと言うか、いかにも「私はマッドサイエンティストです」と言いたげなトカゲだった。


白衣を羽織った二足歩行のトカゲ。

プラトスよりは一回りか二回り程小さいが、内包する魔力は圧倒的にこちらの方が多い。

竜人族…………じゃないよな。

彼らは人間をベースに竜の特徴を合わせ持った種族。

しかしこいつは逆で、体はトカゲそのものだが仕草は人間臭い。

一丁前にモノクルなんてつけちゃって、なんなんだこいつ。




「……………そうだけど、何か?」

「そうかそうか!いやいや、別に何かある訳でも敵討ちしたい訳でもあるまいよ。ただ、あいつを倒したとなると相当な実力者なのだろう?」



なぜか嬉しそうに笑うこいつに対して、俺の内心は凍りついたかのように静けさを帯びていた。

……………やっぱキメラ的な何かだったのか。

興奮したように何かブツブツ呟く男は凍てつく俺の視線さえ意に返さない。



「ふふふ…………"神の孤児みなしご"に加えてこんな掘り出し物を拾えるとは…………!どちらも実に貴重なサンプルだ!」

「………………………一応聞くけど、どちら様?」

「おやおやこれは。私とした事が興奮して自己紹介を忘れていたね」



男は大仰に頷くと、右手を自身の胸にあてて左手を掲げ、とてもイラッとする口調でペラペラと自分のことを喋りだした。

もう聞かなきゃ良かった。

やれ天才科学者だのIQが三千だの、何度"それ嘘だろ!"とツッコミたくなったことか……………。


まぁ要約すると、魔王連合の一角を担う四大魔王が一人、ゼグラルというらしい。

ちなみに魔王連合とはその名の通り、四人の魔王が手を組んだ同盟的なアレ。

世間では割と有名らしいが………………うん、全く知らんかった。

どうしよう、ここは「な、なんじゃってー!?」とでも言った方がいいのだろうか。



「で、そんな魔王さんが何の用ですかね」

「は?そんなのも分からんのか。これだから凡人は」



…………………殺っちゃダメだ殺っちゃダメだ殺っちゃダメだ。

某人型兵器のパイロットのように自分に言い聞かせるように内心そう連呼する。

元ネタに比べてだいぶ物騒な気がするのは気のせいだ。




「何の用か?そんなの決まっているだろう、君達を実験のサンプルとして持ち帰るのだよ」

「実験………...?」

「そうだ。君達の場合は主に耐久実験や解体かな?あらゆる毒物や呪物なんかを注入して変化を観察したり、解剖して脳や内蔵の構造を調べたり……………したいことはいっぱいあるんだ。期待しているよ?」



…………………はぁ、テンプレすぎて嫌になる。

ここまでスラスラ言えるとなると、少なからず今まで同じようなことをしてきたのだろう。

まさにマッドサイエンティストと言うに相応しいであろう所業に、背後で少女がギリッと歯を食いしばる音が聞こえた。

俺も同じ気持ちだ。



ゼグラルとやらが微笑みながら馴れ馴れしく肩に触る───────────。




パキキッ…………………!!




途端に凍てつく冷気が辺りを包み、ほんのちょっぴり、指先が一ミリだけ俺に触れていたゼグラルは恐怖した表情のまま凍りついた。

荒々しい氷塊を前に、俺は拳を引く。



「まだ聞こえてるだろ?そういう風に調節したからね」



とてつもなく魔力…………………もちろん歪んだってのは性悪的な意味で。

量とか圧がとてつもないんじゃなくて、ドン引きするほどとてつもなく歪んでいる。

魔力はその人の性格や人柄を如実にょじつに表すってよく言うけど、まさかこんなにあからさまに表れるとは…………。

そんだけ性格がアレだったと言うわけか。



「本当はこんな言葉使いたくないけど……………お前は、俺の嫌いなタイプだ」



当然反応は返ってこない。

返したくても返せない、と言う方が正しいが。

そのまま容赦なく氷塊ひょうかいを殴って粉々にする。

ゼグラルは大小様々な氷片に変わり果て、ボトボトと地面に落下した。






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