第116話 宴会(2)






「もうクロったら俺をキュン死させる気か!」

「んぅ〜。主大好き」

「むぅ。クロさんだけずるいです!ご主人様、私もなでなでしてくださいよぉ!」



そこは嫉妬するんかい。

本人いわくそれはそれ、これはこれ。

素直に羨ましいんだってさ。

………………嬉しい事言ってくれるじゃんかイナリよ。




「マシローーーー!!」


「「えっ」」



早速両膝をついて頭を差し出し、準備万端で耳をピコピコさせて期待の眼差しを向けるイナリが微笑ましい。

もちろん俺からしてもバッチコイだ。

ご期待通りもふりまくってやるぜぇ!と、目を輝かせ手をわきわきさせていると、不意にデジャブを感じさせるセリフと共に俺達に大きな影が差した。

それに釣られて上を見た俺とイナリは呆然と口を半開きにし、デフォルトで仰向けの状態なクロは再びいつものジト目に戻ってしまう。


俺達が見た光景。

それは、氷の崖の上から跳躍して、満面の笑顔のままこちらに向かって一直線で落下する馬ほどの大きさの黒猫と、なぜかその上にひょうたんを片手にまたがったシュカだった。

一匹と一人、どちらも頬がかなり赤みがかっている事から、既に相当の量のお酒を飲んだ事がよく分かる。


黒猫は俺達の真横に音も無く着地し、背に乗せていたシュカを降ろす。

そしてポンッ!と煙を上げたかと思うとその姿は忽然こつぜんと消えていて、視線を落とした先にはちょこんと小さな子供サイズの黒猫が一匹居た。

しっぽの毛先が白く染まった、二又の黒猫だ。



「マシロ、ワシも撫でてくれなのじゃ!」

「え………もしかして、センリさん………なんですか…………!?」

「んにゃ?そうじゃが?」



ぴょんっ!と飛び上がって俺の肩に乗り、頬をすりすりと擦り寄せて鳴き声を上げていた黒猫が当たり前のように首を傾げる。


あ、そういや昔、変身できるみたいな事を言ってたな……………。

これは種族の特性とかではなくて、猫又になったことによって得た新しい力だそうだ。

大きさなんかも結構変幻自在に変えることができ、食事や水の量、生活スペースなんかも少なくて済むから割と重宝しているのだとか。


あれだよな、イナリが言ってた一部の獣人にしか発現しない変身能力ってやつ。

うちのイナリも同じように子狐に変化できるけど、サイズの変化はちょっと難しいそうで。

おそらく熟練度が違うのだろう。







注文が二つ入ってしまったので、右手ではセンリを。

左手ではイナリを撫でたりもふったりする。


喉元をカリカリしてやるとゴロゴロと喉を鳴らし、背中でフリフリ揺れていたしっぽが腕に巻きついてきた。

さらに反対側のイナリはちょっと耳を触っただけで、すでにしっぽはぶんぶん荒ぶりまくりである。



…………………たまにはいつもあんまり触らない、しっぽの付け根ら辺も触ってみようかな。

多種多様に動くしっぽを前に、ふとそんな事を思った。

別に嫌いとか皆に嫌がられてたとかじゃなく、むしろ王都でクロに出会った日、撫でたら喜ばれた。

それに他の場所と違った感触がして気持ちよかったのをよく覚えている。

そんなふと思い浮かんだ出来心で、イナリのしっぽの付け根の毛をす〜っと梳いてしまった。



「んぁっ………!」



途端に、イナリがビクビクッ!と逸らした背を震わせ、嬌声と共に熱を孕んだ甘いため息を漏らす。


………………………ん!?


反射的に一瞬体が固まり、しかしすぐさま我に返ってさっと手を引きぬ─────────(がしっ)。




「…………ご主人様、もっと……………もっとやってください…………」

「お、おう…………」




後ろ手に俺の腕を掴み、潤んだ瞳でそう懇願こんがんするイナリ。


え、いいの?

これ続けちゃって大丈夫?

正直、この音が反響する空間で嬌声を上げるイナリを撫で続けるのは若干、と言うかかなり抵抗があるんですが。

別にエッチなことをしている訳ではないはずなのに、なんだろうこの背徳感。

しかもここに居るのは俺以外、全員が女の子……………………気まずさの極地に至った気分だ。



「あっ………んん、ぁんっ………………」




助けを求めるようにセンリの方に顔を向ける。




「まったく、しっぽの付け根は獣人にとって大切な場所。それこそ性感帯と言っても過言では無いのじゃぞ?普通は大切な人以外にそうそう触らせるような場所ではないのじゃ」



俺はバッ!と膝枕されていたクロを見る。

すっ、と視線が逸らされた。

………………どうやら本当らしい。



「まぁワシらにとってはあまり関係ないじゃろ。マシロが好きだからのぅ。なんならワシのも触ってみるか?」

「そうすると俺の精神衛生上、大変よろしくないから遠慮しとく」



これ以上、俺の煩悩を増やさないでくれ……………。

ほら、そこでグビクビお酒飲んでるシュカを見習って俺達も宴会を再会しようそうしよう。

名残惜しそうにするイナリから手を離し、そばに置いてあったお酒の入ったさかずきをくいっと傾ける。



…………………………これで顔が赤い言い訳ができるってもんよ。









ちなみにこの後、酔ったセンリとシュカの勢いに負けて、外が暗くなるまで皆で飲み明かした。



──────────帰ったら当然のごとくノエルとアイリスに怒られました。






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