第26話 ダグラスさん(4)
俺は少し重巡した末。
「………とりあえず、一旦帰ってノエル…………あ、一緒に住んでる子ね。彼女に確認してみるよ」
「…………承知しました。今日はここで引き下がっておきましょう。ですが、近々の良い返事をお待ちしていますよ」
さすがに今日一日で了承を貰えるとは最初から思っていなかったらしく、ダグラスさんは意外とあっさり引き下がった。
まだ鈴を鳴らすとさっきと同じお姉さんが空になったティーカップを片付けてくれた。
「では、入口までお見送り致しましょう」
ゆるりと立ち上がったダグラスさんに着いて部屋を出て、入口まで案内してもらう。
さてさて、王都を出たらうちの座標に転移して、早速ノエルに聞いてみるか。
あ、そう言えばお土産頼まれたんだっけ…………でも先に聞いた方がいいよなぁ。
いや、むしろお土産持参の方が良いのでは?
そんな事を悩んでるうちに、見覚えのある受付まで戻ってきた。
「うまーーっ!凄いのだこのお菓子、マシロのやつと同じくらい美味いのだーー!」
「そうですか?嬉しいです!これ、私の手作りなんです」
「そうそう、お菓子買って帰ったらこんな感じで上機嫌に…………………ん、あれ?ノエル!?」
「んぁ?おー、真白!話は終わったのだ?」
本来聞こえるはずのない声に驚いて見ると。
受付横のソファーでアイリスと一緒に座りながらお菓子を食べていたのは、噂をすればなんとやら。
なんとノエルその人であった。
向こうも俺を見つけ満面の笑みで突撃してくる。
あら可愛い…………………じゃなくて!
「な、なんでノエルがここに!?家で待ってるんじゃ…………」
「いやー、寂しくて来ちゃったのだ☆」
てへぺろっ、と可愛く舌を出して笑うノエル。
詳しく話を聞くと、昨日まではギリギリ大丈夫だったのだが、ついに我慢の限界になって俺の気配を辿って転移してきたらしい。
あれ、たしか転移魔法って座標分かんないと転移できなかったはずなんだけど…………。
「アイリスもごめんね、たぶんノエルがお菓子いっぱい食べちゃったでしょ」
「ふえっ!?い、いえ、大丈夫ですよ!沢山作って、まだ有り余ってますから!」
「?なんか顔赤いけど、大丈夫?熱かな…………」
「ひゃう!?」
なぜか俺が声をかける前から若干顔を赤くしていたアイリスが、俺が話しかけた途端にトマトのように真っ赤に染まる。
熱があっては大変だと思い、アイリスの前髪を避けてそっとおでこに手を当てる。
ん〜…………そんなに熱くないな。
じゃあ熱ではないか。
「あわわわわわ…………っ!」
「あれ、おーいアイリスさーん?」
手を離すと、いつの間にかアイリスがカチコチに固まって動かなくなってしまっていた。
目の前で手を振るが反応はない。
な、何事…………?
「あ、そうだ、ノエルに聞きたいことがあってさ」
「ん?」
動かないアイリスはダグラスさんに任せて、俺はノエルを連れて近くの客室を借りる。
そこでかくかくしかじか説明を。
「ふむ…………真白はどうしたいのだ?」
「…………出来ることなら、助けたいと思ってる。でもノエルが嫌なら───────」
「今はワタシではなく、真白の想いを聞いているのだ。真白はどうしたい?」
「俺は……………」
すぐには答えられなかった。
「難しく考えなくていい。真白にもハーレム願望はあるだろう?それに素直に従えばいいのだ」
ノエルはソファーに座って足をぶらぶらさながら、さらっとそう口にした。
そして、さりげなく持って来ていたお菓子を一口かじると。
「一応言っておくが、女なら誰でもかれでも良いという訳ではないぞ?ワタシのようにマシロが好きで好きでたまらない。そんな女なら、ワタシは同士が増えるから大歓迎なのだ」
「………………………」
俺は深い沈黙の後、ぼりぼりと後頭部をかいて立ち上がる。
相変わらずノエルには敵わない。
「ノエル」
「ん?」
「二百年来初めて家族が増えることになるけど、いい?」
「…………それがマシロが決めたことなら、ワタシは否定しないのだ。それに─────────」
ノエルはぴょんっ、とソファーから飛び降りて俺の前に立つと、俺の右手を掴んで自身の頬にぴとっ、と添える。
温かい人肌の感触。
幾度となく触れたノエルの感触だ。
「たとえ小娘が何人増えようが、真白の一番はワタシなのだ。この正妻の座は誰にもやらん」
妖艶に微笑むノエルがぐいっと俺の襟首を掴み、不意打ちのキスをした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます