第25話 ダグラスさん(3)






俺は、草原の剣聖がランクXの冒険者だと明かしたことは無い。


つまり冒険者仲間は俺のことを草原の剣聖だと知らないし、同じように草原の剣聖として知っている人はランクXの冒険者だということを知らない。

正体がばれないようにギルドにも口止めをしたはずだ。


まぁ、バレたからと言って別に何かある訳じゃないんだけどね?

単純に冒険者仲間に草原の剣聖だと知られるのが恥ずかしかっただけで。


沈黙を肯定と受け取ったのか、ダグラスが更に話を進める。



「あなたなら、アイリスを救うことができると私は思っております」

「救う…………?ちょっと待って、それどういうこと?」



出てきたのは衝撃的な言葉だ。

アイリスを救うって………アイリスは今、そんな危機的な状況に陥ってるのか………!?



「アイリスは"魔女"の卵なのです。彼女の実力があれば、とうに魔女になれていた。しかし、魔女になる事を拒んだのです。彼女程の実力者が魔女になれば必然、不老不死を得る。そうなってしまえば周りと同じ感覚では生きられない。愛する者も親しい者も、皆先に死んでいく。そんな絶望を感じたくなかった彼女は、自ら魔女となる道を塞いだのです」



この世界の魔女は少し特殊な立場にある。

前世ではただ単に魔法が使える女性のことを魔女と呼ぶことが多かったが、こちらでは総魔力量が多く、魔法の扱いに長けた存在が昇華する上位種のような扱い。

並大抵の魔法使いでは辿り着けない極地なのだ。

さらに魔女となることで必然的に"不老不死"を得るそうで、それは決して避けることが出来ない。



俺とは………逆のパターンだった。

俺は好きな人と永遠に一緒に居るために不老不死を手に入れた。

けどアイリスは…………。



「しかし、彼女はその日を境に精神を病んでしまう。魔女と人間の狭間を彷徨さまようことが、彼女の精神にまで影響を及ぼしたのです。しかし………マシロ様。あなたと共に居る時、彼女はそんな素振りを見せましたか?」


「いや、少なくとも俺が見ている限りでは全く。普通の女の子だったさ。自分で言うのもなんだけど、むしろ楽しそうだった」


「でしょう?彼女は、先程あなたとの旅を楽しそうに話してくれました。あんなに嬉しそうな顔をしていたのは久しぶりです。いつもはもっと思い詰めたような表情をしていましたから」




あなたといる事が、彼女にとって救いになっているんですよ、とダグラスさんはしんみり話す。


あの元気いっぱいのアイリスが?

一週間だけ一緒に過ごした程度だけど、そんな風には思えない。


考えたくはないけど、ダグラスさんが嘘を…………いや、それは絶対にないな。


二百年以上生きてたおかげで、人の顔を見れば相手の感情なんかは大抵分かる。

ダグラスさんは嘘をついていない。

というか、そんな嘘をつくメリットがないはずだ。



「でも………仮に俺がアイリスを買うとして、どうやって助けるの?アイリスを魔女にしろ、とか言われても無理だよ?」



知り合いに魔女とか居ないし、そもそも魔女に関するシステムとか何一つ知らないし。



「…………彼女は、一度"魔女の儀"を破棄しているため、自力では魔女になれません。しかし、あなたの"眷属化"というスキルがあれば話は別です」

「…………もう一周まわって怖くなってきた。なんでそのスキルを俺が持ってるって知ってるのさ…………」



これこそ本当に謎だ。

俺は、〈眷属化〉というスキルを所持していることをノエル以外に言っていない。

強いて言えば、二百年以上前に水晶で測定した時にシルバ達が見ていた程度だ。



隠していた理由は主に二つ。


一つ目は、単に珍しいスキル故に面倒な輩に目をつけられないようにするため。

二つ目はその効果。

自分の体を構成する物質、もしくは分泌物を他者に取り込ませることで、その者の潜在能力や実力の底を上げる効果を持つスキル。


髪なんかでも成功するらしい。

だから極端に言えば、軍事国家とかは特に手に入れたいスキルなのだ。


ちなみにスキルの精度は俺の魂魄こんぱく………つまり魂や遺伝子がより多いまたは濃いものを取り込むと高まるそうだ。


つまりはまぁ、その…………ね?



女の子とをするのが一番手っ取り早い…………と言うか、確実な方法な訳でして。

そんなエロゲみたいなスキルを公表したらどうなるか分からないので、ノエル以外には言っていないのだ。


シルバ達すら効果も知らなかった。



……………ちなみにこの効果を知ったあと、それとは全く関係なくノエルと"ピーーー"(自主規制)した。



「若いって良いですな…………」

「たぶん知ってると思うけど、一応俺達は二百歳超えなのよ…………」



見た目はそうだけど、中身はもうそんなに若くないって…………むしろおっさんだし。

見た目は子供、中身はおっさんだから。

いや、今も心身共に自称十五歳少年だけどね?



「おっと、話がズレてしまいましたね。つまりはその〈眷属化〉のスキルで彼女と交わり、彼女自身を昇華するんです。そうすれば、きっと魔女になれるはずです」

「しっかり言っちゃったよこの人」



まぁ、とりあえず理屈は分かった。

俺は顎に手を当てて思考にふける。

たしかに俺ならアイリスを魔女に昇華するとこはできるだろう。



しかし、それは本当にアイリスが望むことなのだろうか。

愛する者、親しい者との別れが辛くて魔女にならなかった。


結果としては、逆に魔女にならなかった事によって精神を病むことになってしまったのは皮肉だが。

たしかにアイリスが不老不死になれば、俺はずっと一緒に居ることができる。


だけど…………。


それにノエルの問題もある。

果たして彼女がアイリスを買うことを許してくれるかどうか…………。





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