第24話 ダグラスさん(2)






「たしかに確認致しました。こちら報酬の金貨二十枚になります」



受け取ると、ずっしりとした重みが手に伝わってくる。

これで依頼は完了だ。

よーし、久々の一仕事おーわりっと。


俺は思わず感じた安堵にため息をつく。




いやー、今回は機密文書とかいう、無くしたら取り返しのつかないどころじゃないレベルの物だったからさ。

万が一にもそんな事は起こさないつもりだけど、それでもいつもより緊張しちゃってた。

機密文書とか持ってるだけで手が震える。


そんな事を内心考えていた俺の横で、お茶を入れた女性は一礼し、トレーを持って部屋から出ていく。



「では、ここからは仕事の話は終わりにして、お互い楽に話しましょうか」

「あはは………そうしてもらえると助かります………」



正直、二百年以上経った今でも昔のように人と話すのが苦手な俺は、同じくさっきみたいな丁寧な口調で話すのも苦手なのだ。

つまりコミュ障は健在。

苦手なことを克服するのは簡単じゃないのよ、うん。



今まで何回かお偉いさんからの依頼も受けたことがあるのだが、毎回ボロを出さないかドキドキしている。

だいたい最初は大丈夫なんだけど、話すにつれてしどろもどろになって化けの皮が剥がされる。


なので、こうして楽にしていいと言われると本当にありがたい。

たぶんダグラスさんにはその事が見透かされていたのだろう。



「まずはお礼を。道中、アイリス達が大変お世話になったようで…………」

「ああいえ、お気になさらず。むしろ彼女達と一緒に来れて楽しかったですし」



笑顔でそう答えてから、お茶と一緒に差し出された高そうなお菓子を一口食べる。

あー、糖分が疲れた体に染み渡るぅ…………。



「マシロ様は、胸がお好きなのですか?」

「ぶふっ!?」



危うく口に含んでいたお菓子を吹き出しそうになった。


え、ちょ、え?

ダグラスさんからの予想外すぎる質問に思わず困惑してしまう。

ごめん、楽にして話そうってのがそっち方向の話題だとは思わなかったんですが…………。


もしかしてダグラスさん大きいのが好きなの?そうなの?

だからさっきの人も巨乳だったのかちきしょう!

羨ましい。



「いえ、先程から彼女達の胸に視線が行っていたので、もしや………と。彼女達もうちの商品です、お眼鏡に適いましたか?」

「よく見てるのね…………」



たしかにさっきお茶を入れてくれた女性の胸を見ていなかったと言えば嘘になる。


駄菓子菓子だがしかし

あんなに胸元の開いた服で目の前でかがみこんだら、そりゃ男なら誰だって視線が吸い寄せられるでしょうが!

これはもう男の性なのよ…………。

女の子でも思わず見ちゃうよね?


今考えると、あれすらダグラスさんの戦略だったのかもしれない。


一応言っておくが、決して俺が胸が大好きという訳ではないはずだ。

たぶん。




…………て言うか、凄いなダグラスさん。

あんな美女がそばに居て、変な気を起こしたりしないのだろうか。



「そんな気は起こせませんよ。商売は信用が一番。もしそんな事をしていると知られたら、商品が売れなくなるどころの話ではありません。商人としての人生が絶たれてしまいます。特にここ、王都アインズベルンではね」

「なるほど…………」

「ええ。ですから、私はマシロ様にも何か感謝の印を送りたいのです」



ダグラスは一口お茶を飲んで一息つくと、改めて俺の目を見てこう切り出した。



「どうでしょう、アイリスはうちの中でも随一の商品です。彼女を…………半額で


「………………………ほほう?」



ここで少し乗り気な返事をした俺を許して欲しい。

だってアイリスと一緒に居ると楽しかったし、あのレベルの料理が出来る人が一人家に居るのと居ないのでは、生活の質が天と地ほど変わる。


それに、最近(今更)もう少し人手が欲しいとノエルと話したばっかりなのだ。

タイミング的にはバッチリな事この上ない。



「彼女は家事が出来ますし、戦闘も行えます。そしてなにより……………処女でございます」

「ごくり…………って、その情報を与えられてどう反応しろと!?」


「ご想像にお任せします」

「むぅ…………というか、アイリスはこの商会で大切な人材じゃないの?たしか補佐って言ってたけど………」


「たしかに彼女を失うのは痛手です。ですが、それだけのメリットがあると私は思っています。あなたとは良い関係を築いていたい。そうでしょう?""様」


「…………………」




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