第17話 二百年経ちました(2)
依頼を受けてから数時間後、俺は小さなバックと剣を背負いながら、カディア村の数キロ先にある
一見ただの
一度霧に飲まれるとものの数分で
毎年この樹海での行方不明報告が絶えないのだとか。
「うへ〜、なんとか午前中に抜けたいな…………」
わざわざここを通らなくても
それに危険な霧が発生するのは午後のこと。
午前中に抜けてしまえば問題ない……………って言って入った冒険者がだいたい遭難するんだけど、俺の足なら一、二時間で抜けられるはず。
現在地はおそらく全体の三分の一進んだあたりだから、この調子で行けば余裕を持って抜けることが出来るだろう。
周囲を警戒しながら道ならぬ道を進んでいると、不意に前方の
魔物の気配。
しかも音がした方向だけでなく、四方を囲まれている。
前のやつは
どうやらこの魔物はそれなりに知性があるようだ。
数が少ないながら、単体で言えばスタンピードの時に戦った魔物より強いだろう。
『グルアァァァッ!』
「よっ」
真正面から大きく
すると間髪入れずに背後から残りの五匹の魔物が飛び出してきて、その鋭い爪の生えた足を俺目掛けて振るう。
振り返りざまに地面から引き抜いた剣を
二匹の狼は
が、残り一匹は風の刃が当たる直前に、まるで空中に足場があるかのように踏み込んでジャンプ。
見事に無傷だった。
この狼の魔物の固有魔法(その魔物だけが使える、魔法の一種)だろうか。
しかしせっかく魔法を避けた狼の魔物も、お腹に強烈な後ろ回し蹴りを喰らい、派手に吹き飛んで
あまりの衝撃に大木は大きく揺れ、上の方から葉っぱが降り鳥が飛び立つ音がした。
その後も何回か魔物に襲われたが、全て同じように
やはり一般的には厄介とされているこの樹海の魔物も、俺が相手ではなんの問題もないようだ。
それからさらに一時間ほど経過し、樹海も三分の二ほどまで踏破した頃。
「…………何だろ、この気配」
前方から何かが近づいてくるのだが、何やら様子がおかしい。
人間でも魔物でもない気配…………いや、ごちゃ混ぜになった気配って言った方がいいのかな。
とにかく異質で気持ち悪い。
…………ん、向こうも俺に気が付いたみたいだな。
感覚を研ぎ澄まして相手の正確な位置を
「なっ!?お、お前、さっきまで向こうにいたはずなのに…………!?」
突然目の前に現れた俺に
全員が不思議なローブで身を隠し、大きな麻袋を持っている。
気味の悪い気配はあのローブが原因だな…………。
しかもあの気配のせいで遠くからじゃ分かんなかったけど、あの
しかも小さな子供だ。
必死にモゾモゾしてるから、まだ抵抗する元気はあるのだろう。
それぞれ男達が一つ抱えてるから少なくとも四人か…………。
瞬時にそれを把握すると、男達が腰に着けていたダガーを抜く前に問答無用の手刀で気絶させる。
【
男達が意識と共に手放した麻袋を素早くキャッチし、そっと地面に下ろす。
「どうどう、今から紐を
「くらえ、盗賊めぇ!──────ってあれ………?」
麻袋の中で暴れる子供を出してあげようと紐を
完全に油断してたせいで魔力による身体強化も間に合わず(と言うかしたら少女の手が粉砕するので)、もろに喰らった一撃に思わずごろごろと地面を転げ回ってしまう。
たぶん他の子を守るために盗賊に抵抗しようとしたんだけど、あいにくのタイミングで俺がその盗賊を倒したせいで、代わりに俺が喰らってしまったのだろう。
この子、将来強くなるよ…………。
赤くなった頬を擦りながら立ち上がると、例の少女がポカンとしながら俺の事を見つめていた。
どうやら予想外の展開に着いていけていないらしい。
改めて見ると、彼女の首にはごつく黒光りする首輪が付けられている。
"
あれが付いているという事は、この七、八歳の黒髪の少女は誰かの奴隷ということになる。
「お兄ちゃんが助けてくれたの………?」
「そうだよ。ほら、悪い盗賊さんはそこに縛ってある」
指さした先には、ぐったりとした様子の盗賊達がまとめて木に縛り付けてあった。
可能性はゼロに等しいが目覚めて暴れられても困るので、ちゃっちゃと縛っておいた。
少女が呆然としている隙に他の麻袋も開くと、予想通りそれぞれに一人子供が詰め込まれていた。
女の子と男の子、それぞれ二人ずつだ。
全員が最初の子と同じく首輪を付けている。
「ぐずっ、ゔぇ〜ん!こわかったよぉ………!」
泣きながら抱きついてきた三人を抱きしめ、よしよしと頭を撫でてあげる。
あんな袋に詰め込まれて誘拐されたんだから、そりゃあ怖かっただろうなぁ。
呆然としていた少女も、徐々に気持ちが追いついてきたのかぽろぽろと涙を流し始め、たまらずタックル気味に抱きついてくる。
「うぅ………ぐずっ、おにぃちゃん………ありがとぉ…………!」
四人分の涙と鼻水がべっちょり服に染み込んでいるが、今はそんな事は気にしないでおこう。
ひたすらみんなが泣き止むまでよしよしし続けていると、ふと黒髪の少女が何かを思い出したようにぐしぐしと涙を
「お兄ちゃん、アイリスお姉ちゃんがね!悪い人達に襲われてるの!」
「アイリスお姉ちゃん………?」
少女の
「そ、そうだ、アイリス姉ちゃんがこいつらの仲間と戦ってるんだ!なんでかこいつら、強そうな魔物を味方にしてて………姉ちゃんの魔法が全然効かなかったんだ………」
「その隙に僕達はさらわれちゃって………」
「お兄ちゃん!お願い、アイリスねぇを助けて欲しいの!」
必死に服の袖を引っ張りながら俺を見上げる子供達。
よほどそのアイリスという人が大切なのだろう。
ならば返事は当然決まっている。
「分かった、お兄ちゃんに任せな!」
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