二章 出会い アイリス、クロ編
第16話 二百年経ちました
あの日から二百年ちょっとの年月が経った。
ただひたすら、ごろごろだらだらしたスローライフを
寝たいだけ寝て、体を動かしたいな〜って思った時はノエルと二人でちょっと
ふと思い立って遠くに旅行に行ったりと。
とにかくゆっくりのんびりをテーマに過ごした。
……………一応言っておくけど、
生活に必需なお金は、シゼルさんに冒険者登録をしてもらったので、時々依頼やクエストをこなして稼いでいた。
"Xランク"なのでクエストに困ることも無い。
むしろ王都から直接の依頼が来たりすることもあったくらいだ。
また、村がピンチに
例えば伝染病が流行しただとか、魔物が襲ってきたりした時とかね。
村人がバタバタ死ぬのをただ
そんな事をしていた+シルバ達が俺とノエルの活躍を、まるで神話を語る
ただ伝説や言い伝えは、どうしても年月を経ることによって変わってしまう。
きっと"草原の剣聖"というそれっぽい名前かつ、明確な対象がいる方が伝えやすかったのだろう。
ノエル的には、現世で目立つと神様的に色々まずいので結果オーライらしいのだが、もう一人の当事者の俺からすると少し
まぁノエルがそれでいいなら細かく言うつもりは無いけどね。
それに、村の発展に横槍を入れるなんてまねは出来るだけしたくない。
そんな訳で、今では"草原の剣聖"の名はこの村、"カディア"だけではなく、世界中に広がるほどの知名度を誇っていた。
風の噂によると、世界には"草原の剣聖"を
今のところ俺が把握している三大派閥の内、一つは"草原の剣聖"にただひたすら貢ぐことが目的の「剣聖様に貢ぎ隊」。
もう一つは、理由は違うが一つの目的のために集結した「剣聖様に弟子入りし隊」。
そして最後に、男女問わず"草原の剣聖"に
それぞれが文字通りの願望を掲げ、日々しのぎを削っている…………らしい。
最初に知った時、あまりにもぶっ飛んだネーミングセンスとクレイジーな思考にドン引きしたのは言うまでもない。
総じてツッコミどころが多すぎる。
貢ぎたいって、俺もしかしてアイドルか二次元の存在だと思われてる?
確かに過去とんでもなくでかい宝石や大量のぬいぐるみ、お菓子その他諸々を冒険者協会を通して、なんなら直接渡しに来た人も居た。
「剣聖様に弟子入りし隊」は唯一まともかと思ったら、構成員が全員厄介なガチ恋勢みたいだし………。
明らかに身の危険を感じた。
そして最後、一番アウト!
いくら俺が若返って中性的な見た目だったとしても、色々と完全にアウトだ。
え、なに、世界中にこんな事思ってる人が居んの?
恐怖でしかないんだけど…………"男女問わず"ってとこがさらに恐ろしい。
「あっ、剣聖様!おはようございます!」
「ん、おはよう。野菜はいい感じに育ってる?」
「はい!この前、剣聖様から頂いた助言を元に肥料を作ってみたら、見ての通りすくすく育ちました!」
「おお、ほんとだ!そりゃあ良かった」
さて、そんな考えたくない話は置いておいて、今日はとある用事があって村に降りてきた。
ついでに立ち寄った彼の家は代々農家をやっていて、少し前に不作に悩んでいたところに俺が少しアドバイスし、その結果無事に不作を乗り切ることが出来たようだ。
ふふ、俺もただ二百年近くだらだらしてた訳じゃないんですよ。
皆の助けになるだろうと思って、遥か昔の記憶を頼りに指南書などを執筆したのだ。
内容は農業や経済など様々だが、どれも前世で見たクイズ番組やら参考書等から引っ張り出した知識が中心である。
しかし知識と言っても所詮俺の記憶でしかないので、当初はどうしたものかと悩みに悩んだ。
そこで頼りとなったのが魔法。
さすがファンタジー、ちょこっと図書館で探せば"記憶を詳細に思い出す魔法"なんてすぐに見つかった。
まぁ普通に古代魔法でしたけど。
しかも"特定の記憶"じゃないから、俺の二十数年間目にしたものが全て詳細に想起されて大変だった。
不老不死じゃなかったら脳が処理しきれなくてショートしてたかも…………とまぁ昔の話は置いておいて。
収穫時期が来たらおすそ分けすると言ってくれた青年と別れ、俺は改めて目的地の冒険者ギルドに向かう。
事前に連絡を受けていた、王都にあるギルドからの依頼を受けるためだ。
やがてたどり着いた小さな建物のウェスタンドアを押し、通い慣れた冒険者ギルドの中に入る。
「はよーっす」
「あ、マシロさんいらっしゃ〜い」
入口正面にある受付に行くと、見覚えのある制服に身を包んだ受付嬢が手を振って奥から出てきた。
シゼルさんだ。
四、五歳は歳をとって大人っぽくなってはいるものの、まだあの頃の面影をバッチリ残したシゼルさんだ。
いや、人違いとかそっくりさんじゃなくて、マジモンのシゼルさん。
この人、二百年近く経ったのにまだこのギルドで受付嬢してるんだよね…………。
人間の寿命とは。
ずっとこの見た目から変化ないし、もしかして俺達と同じ不老不死なんじゃないのだろうかと度々思う。
ちなみに年齢を聞くとシゼルさんは静かに怒る。
年齢以外だったら基本的に何でも答えてくれるが、年齢だけはダメらしい。
色々と謎が多い女性だが怖いのでちゃんと聞けていない。
長寿なエルフ族であるネイを除けば、あの頃から唯一残っている人なのだ。
「あら、今日はノエルちゃんはお連れじゃないんですね」
「うん。ほら、この前連絡もらったでしょ、王都からの依頼の事で。今日はそれを受けに来たんだ」
「あぁ、例の件ですね!ちょっと待っててくださいね〜」
ぽんっ、と胸の前で手のひらを合わせたシゼルさんは一度奥の部屋に引き返すと、少しして何か封筒らしきものと小袋を手に持ってやって来た。
「こちらの文書をダグラスという商人に渡す、と言うのが依頼内容ですね。これは支給された宿代などです。道中にお使いください」
テキパキと作業をこなして書類に
さすがは二百年も受付嬢をしているだけあって、作業の正確さと素早さはもはや芸術レベルだ。
にしても、これを王都に届けるだけで依頼完了なの?
それにしては報酬が金貨二十枚(日本円にして約二十万円)とずいぶん高額だな………。
こっから走って行ったら休憩込みで王都まで三、四日くらいだから………日給に
さらに道中の宿代も出るときた。
うわ、すごいな、一気に儲かるじゃん。
「あ、言い忘れてたんですけど、それの中身は
「今まさに報酬の高さに納得した!」
なるほどね。
だから報酬も高いし、
それなら納得納得…………って、そもそも機密情報が渡る商人って一体………?
ただの冒険者に大切なはずの機密情報を運ばせるのも謎だし。
ダグラスさん何者?
「はい、これが紹介状です。これを渡せばすぐに対応してくれますよ。それでは頑張ってくださいね〜!」
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