第15話 鑑定(3)






「これに手をかざして魔力を流せば、対象のステータス、職業、さらに魔法の適正属性やある程度のスキルまでもが確認できるのです!」

「ほほう。なるほど、よくギルドの受付に置いてあるやつね」

「そーですそーです」



もう片方のポケットから同じ水晶を取り出しながらシゼルさんが頷く。

この水晶の設定はきっとゲームやアニメによくある物と一緒と思っていいだろう。


基本冒険者になる人はまずこれで自分のステータスを把握し、職員がそれにあったランクを付けるらしい。

大体最初は最低ランクのEだが。


理由としては、いくら実力があろうとも冒険者としては素人なので、何か前職で騎士や傭兵をやっていたとしても最初はEランクからスタートする。

そこからクエストをこなしてポイントを貯め、ある程度貯まると次のランクに昇格。


これの繰り返しだ。

特殊なケースで、一定以上の実力と知識があるとギルド側にみなされた場合は飛び級も有り得るそう。



冒険者ランクは下から順にEランク(初心者)→Dランク(普通)→Cランク(中級)→Bランク(中級)→Aランク(プロ)→Sランク(一流)→SSランク(英雄)→Xランク(未知数)の計八ランクに分かれていて、それぞれに最低戦力値が指定されている。


それを下回るとランクアップは出来ない。

一般成人男性を百として例えばCランクの場合は五百、みたいな。

無法者やハイエナ戦法を使う冒険者を取り除くためにあるシステムらしい。


ちなみに魔物にもランク付けはあって、



・神話級 :軽々と世界崩壊レベル。数千年に一度出現するかどうか。

・天災級 :会ったら人生終了。天災級だけでも世界が半壊。滅多にいない。

・災害級 :国を一体で滅ぼせる。Sランク上位じゃないと相手にならない。

・準災害級 :街一つ簡単に滅ぼせる。Aランク以上の冒険者が討伐に当たる。国家が動くことも。

A級 :ベテラン冒険者、もしくはそれなりの実力があればいける。

B級 :B、Cランク相等。

C、D級 :そんなに強くない。BとCでは圧倒的に強さが違う。



と、各等級に分けられている。



「じゃあマシロさんとノエルちゃん、早速お願いしてもいいですか?」


「よしきた」

「任せるのだ!」



二人同時に言われた通り水晶に手をかざし、ほんの少しだけ魔力を流し込む。


すると、水色だった水晶が水に絵の具を垂らしたように徐々に色が変化し、俺の方は最終的に黒と白の二色に落ち着く。

気になってノエルの方をちらっと見ると、彼女の水晶は向こう側が見えないほど真っ白に染まって光を放っていた。


おー、やっぱり人によって起きることは違うんだ…………。



「え…………なんでしょう、これ………」


「「?」」


「こんなに時間がかかるのは初めてですね。水晶の処理速度が落ちてるんでしょうか………………あ、そんな事言ってるうちに終わったみたいです!」



首を傾げていたシゼルさんが両手を合わせて微笑み、水晶を操作して皆の前に俺達のステータス画面を映し出した。






      ─────────────


         夢咲真白  人族(??族)


       職業:剣聖     Lv???

  

魔力量:???????

攻撃力:???????

防御力:???????

生命力:???????

知力:???????

素早さ:???????

総合値:????????


適正


火、水、風、土、光、闇属性


能力

・???? ・眷属化 ・不老不死 ・限界突破 ・全属性魔法 ・古代魔法 ・全属性耐性 ・全特殊状態無効 etc……




    ──────────────





    ───────────────


       ノエル    人族(?族)


      職業:専業主婦    Lv??? 


魔力量:?????????

攻撃力:?????????

防御力:?????????

生命力:?????????

知力:?????????

素早さ:?????????

総合値:??????????



適正


火、水、風、土、光、闇属性


能力

・???? ・不老不死 ・限界突破 ・全属性魔法 ・古代魔法 ・全属性耐性 ・全特殊状態無効 etc……



    ──────────────





「「「「「 !!?!?! 」」」」」



「え、なにこれ。ハテナがいっぱいなんだけど…………もしかして不具合?」

「違うのだ、ワタシ達の力が大きすぎて測定不能だったみたいなのだ」



なるほど、つまりはばっちりテンプレ展開と。


適性属性も魔法の基本属性六つ全部ある。

この世界の魔法は火、水、風、土、光、闇の基本属性を軸に構成されていて、この内三種類に適性があれば凄い方だと言われている。


さらにここから派生した雷属性や氷属性などの属性魔法もあるが、派生元の適性があるからと言って、必ずしもこちらの適性があるとは限らない。

俺達の場合はさっき普通に使えていたので適性ありと考えて問題なさそうだ。


ちなみに無属性魔法は適性要らずの便利な魔法で、人によって使える魔法の種類は違えど誰でも一つは使えるらしい。


レベルもこれは………三桁ってことか?

いやでもそう考えたらステータスバグってるし…………もはや職業に関しては"剣聖"だなんて自称した覚えはこれっぽっちも無い。




本当はここで俺達が自分の実力を包み隠さず見せるメリットはあんまりない。

こんな結果が出れば間違いなく一発で大騒ぎになるからだ。


そうしたらスローライフに支障が出る。

実はステータスの偽装や隠蔽いんぺいも出来ないことはないので、やろうと思えば一般冒険者並の能力に見せることも出来たのだ。



駄菓子菓子だがしかし



たとえ体を作りかえて異世界転生したとしてもオタク魂は消すことができない。


本当のステータスを見せて受付嬢が驚愕!

奥からギルド長が登場!

いきなりギルド長お墨付きの高ランク認定!、みたいな。


そんなテンプレを一度でいいからやってみたかった。


………………ちょっとだけ、その圧倒的な実力に受付嬢の目がハートに!女の子にモテモテ!という所まで実現してみたい…………………なんて微塵も思ってない。

思ってないったら思ってない。


だからノエル、冷ややかなジト目で見上げるのはやめて欲しい。



「な、なぁシゼルちゃん、こんな事ってありえるのか?」


「いえ…………少なくとも今まで私が担当してきた中では、"?"が表示されたことなんて一度もありません。これ、凄いどころの話じゃないですよ…………」

「つか不老不死って…………」


「ああ、たしか魔女の中でも限られた存在だけが持ってる特殊能力のはずだ。"剣聖"って職業ジョブが同じくらい高位っつーことなのか?」


「でもノエルちゃんは"専業主婦"だし…………」

「…………この二人に関しては常識で考えちゃダメなのかもな」




シルバ達はまだ驚愕から抜け出せず、映し出されたステータス画面を見て唖然あぜんとしていた。

皆、期待通りの反応をありがとう。




「なぁなぁ、今度二人の銅像を作って村の真ん中に飾ろうぜ!こんな伝説級の出来事、後世こうせいに伝えない方が損だろ!」

「いいな、それ!"たった二人で万軍に立ち向かった剣聖様とその妻"ってな!」


「ふぅ〜!剣聖様〜!」

「剣聖様かっこいい〜!」



「絶対やめてよ!?」



それ、酔った勢いでやったら絶対後悔するから!

て言うかそれ以前に俺達が恥ずかしいからやめて!


必死に説得を試みるが、酔った皆は全く聞く耳を持たない。

どうやら彼らの中で銅像を作ることは決定事項らしい。

なぜ皆はこれ程、銅像を作ることに乗り気なのだろうか。



……………ま、まぁ皆のことだから、どうせすぐ忘れちゃうでしょ。

驚きで酔いが覚めるどころか、むしろハイテンションになっちゃった彼らを止めるすべを俺は持っていない。



いやまぁ、物理的に黙らせることはできるけども。

こういう時は当たり障りなくスルーするのが一番だ。










数年後、俺は激しく後悔することになる。


スタンピードを終息させたこの日は村の建立記念日に並ぶ二代記念日となり、村中でお祭り騒ぎになるほど、この村にとって大切な日となった。

それはいい。

全然いい。


だが、村の中央に寄り添って立つ男女の銅像はいかがなものか。

のちにこの銅像をとり壊そうとする俺と、全力で死守する村人の間でかつてない抗争が起きるのだが、それはまた別のお話。




俺に"草原の剣聖"という二つ名がつき、シゼルさん経由で冒険者ギルドから全世界に名がとどろくのだが……………それもまた別のお話。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る