第18話 アイリス救出





「よし、じゃあ少しの間だけ我慢しててくれな」



「「「「うんっ!」」」」



さすがに四人も抱っこは出来ないので、申し訳ないが両手に二人ずつ担いで移動することにした。

クレーンゲームで持ち上げられた人形のように手足をブラ〜ンとさせる子供達からの元気な返事を聞き、俺は早速高速で移動を開始する。


もちろん風圧で怪我をしないように、正面に魔法障壁を張るのも忘れずにだ。



「わー!すごいすごーい!」

「馬車よりずっと速い………!」

「すっげぇー!」

「お兄ちゃんかっこいいの!」



子供達が俺を見る目はキラッキラに輝いている。


うむ、泣き止んでくれたようで何より。

泣くなら今じゃなくて、再開した時にめいいっぱい泣いて欲しいもんな。



…………さて、皆の言う"アイリス"という少女と盗賊の位置は既に索敵済だ。


〈気配感知〉で確認してみると、確かに結構高位の魔物と思われる存在が盗賊側に着いている。

数もそれなりに多い。


これはどう言う事なんだろう。

魔物を使役できる貴重な職業の召喚術士しょうかんじゅつしは盗賊側に居ないようだし…………それに、さっきの盗賊達が羽織はおっていたローブも気になる。


あの精度を誇る魔道具をなぜ盗賊なんかが持っていたのか…………いや、もしかしたらなのかもしれないが。



俺はさらに加速して真っ直ぐ進んでいた樹海じゅかいを横断し、そのまま樹海を迂回うかいするように整備された道に飛び出る。

ちらっと見ると、目測で数キロ離れた場所から微弱な戦闘音と、くすんだ白煙が立ち上っているのが目に入った。



索敵した場所とも一致する。



そして今改めて〈気配感知〉のスキルで見て驚いたが、アイリスという少女は今もなお、大勢の盗賊と配下(?)の魔物相手に一歩も引かず応戦しているらしい。


多数対少数とかそういう次元の話ではなく、どう考えても一人じゃ対処出来ないような数なんだけど…………。

もしかしてアイリスさんってチート持ち?



…………いや、そんな事言ってる場合じゃないな。

たしかに今は拮抗きっこうしてるけど、いつアイリスさんが押し負けるか分からない。


その証拠に、〈気配感知〉上の盤面ばんめんではほんの少しずつではあるが、アイリスさん側が押されてきている。

これは急いだ方が良さそうだ。



「皆、ちょっと急ぐから口閉じといてね。舌噛んじゃうから」



子供達が慌てて口を閉じて手で覆ったのを見て、微笑ほほえましいものを感じながら、俺は両足に魔力を流して強化する。


そして一歩踏み込んだ瞬間。


ヴッ!と鈍い音が耳を通り抜けると共に景色が背後に引き伸び、一瞬のうちに今までとは比較にならないほどの距離を進んだ。


子供達からすればワープしたようにさえ見えただろう。

それほどの速度で、俺は地を蹴る。

数回加減を間違えて地面が陥没してしまったが、見なかったことにしてどんどん走る。



「【エアロブラスト】!」



樹海に沿った緩やかなカーブを途中まで曲がると、ついに盗賊と魔物に相対あいたいするように立った一人の少女の姿が見えた。

少女は所々に傷を負った馬車を背に魔法をはなち、接近していたゴーレムのような魔物を三体とも吹き飛ばす。


が、魔法を喰らったゴーレム達はすぐに何事も無かったかのように立ち上がってしまう。

今の高威力の魔法を喰らって全くの無傷とか、一体どんだけ強力な魔物なのだろうか。

いかに魔法抵抗力の高いゴーレムと言えど少々おかしい。



目を向けると、盗賊側は樹海で倒した奴らの仲間らしき人間が数十人。

それに見たことない色のゴーレムと、ごついよろいに本来首のある位置から紫色の炎がゆらゆらと見える、いわゆるデュラハンと呼ばれる首無し騎士が八体ずつと。



「げっ………」



そして、また少女向けて歩き始めたゴーレムがちょうど俺が走っている直線上…………しかもギリギリ今からでは止まれない位置に重なった。

だぁーーーーー仕方ない!このまま突っ込むぞぉーーー!



「はぁ、はぁ…………っ!も、もう一回、【エアロ───────って、えぇ!?」



「せいやーーーーー!」



そのまま速度を落とさずゴーレムに飛び蹴りを喰らわすと、ものすごい衝撃波が鋼鉄こうてつの体をいとも容易たやすく貫通し、遅れてソニックブームさえも発生させる。

その勢いだけで残り二体のゴーレムの体にもヒビが入り、大きな砂埃すなぼこりを上げながら粉々に砕け散った。



もう一度魔法を放って対抗しようとしていた少女は、突然その相手が四散しさんして驚きを隠せないようだ。

当然ながら、手元の魔力も霧散むさんしてしまった。


俺は砂煙の中立ち上がると、邪魔な砂煙を風魔法で吹き飛ばす。

それから目を輝かせる皆を降ろし、背中の剣を抜いて正面の盗賊達に向け。



「もう大丈夫!何故って!? 私がK──────」



「アイリスお姉ちゃーん!」

「アイリスねぇ!アイリスねぇ!」


「………………」



どこぞのヒーローのような決めゼリフを言いかけた途端、降ろした子供達が一斉にへたり込んだ少女の元に駆けていく。

感動の再会だ。


みんな涙を流し、少女ことアイリスの無事を喜んでいるようだ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る