第19話 アイリス救出(2)





気がつくと後ろの馬車からウサミミがぴょこりと覗いていた。

しばらくすると首輪のついた兎人族の幼女が姿を見せ、泣きながら黒髪の少女に抱きついた。


あの二人は仲良しなのだろう。


それをきっかけに続々ぞくぞくと馬車の裏から小さな子供達が出てきて、泣きながらアイリス達の周りに集まる。

こんな感動展開だが、俺は一つ違和感を感じていた。



全員が全員、一桁に収まりそうな見た目の上に、もれなく"隷属の首輪"をつけていたからだ。

それはアイリスも同じだった。


彼女が主人じゃないのか…………だったら肝心かんじんの主人はどこに行った?

まさか、この子達を置いて逃げたっての?


セリフをさえぎられた微妙な気持ちから一転、えもいえぬ感情が内から湧き出てきた。



……………まぁ、それは後で聞けばいいか。

もし本当に見捨てて逃げたんならそいつはしょす。


盗賊側のリーダーらしき人物とバッチリ目が合ってしまったので、強制的に思考を中断して一歩前に出る。



「あん?誰だテメェは」

「通りすがりの冒険者だよ。あの子達を助けるために来た」

「はっ、たった一人で俺達を相手にするってか!?こいつぁ相当頭イッてやがるぜ!」



ゴーレムが三体も一気に破壊されたというまさかの状況に、男の部下達はざわざわと騒いでいる。

しかしそれを一喝いっかつして黙らせ、この状況でも冷静さを欠かず堂々とした態度を維持するこの男は相当な手練てだれ……………と言うより、ただの救いようのないバカだろうな。


冷静な判断なんてもってのほかで、魔物達と自分の力を過信しすぎている。

"堂々"よりも"傲慢ごうまん"だろこいつは…………。


圧倒的に漂う三下感。

こういう奴ほど、ピンチになると仲間を見捨てて真っ先に逃げるんだよなぁ。



「おい、俺達が用があるのは後ろの奴隷どもだけだ!今なら見逃してやる、とっとと失せやがれ!」



下卑げひた笑い声を上げながらそう叫ぶ男に便乗びんじょうして、他の盗賊達もギャーギャーとはやし立てる。

舐めるような視線を向けられた子供達の顔には再び怯えと恐怖が戻り、ただ震えるばかりだ。


こいつらマジか?

ツッコミどころが多すぎて何から言うべきなのやら…………。



盗賊達のあまりにも好き勝手な言動にイラッときた俺は、騒いでいる彼らを無視してまた一歩前に出る。



「あぁ?テメェ話聞いてたのか?さっさとどけっつってんだよクズが!」



………………あー、今ぷっつんきましたよ、ぷっつんって。


ついに俺の怒りのボルテージが限界突破した。

こいつらは近くの町の警邏隊けいらたいに差し出す前にキツいお仕置が必要みたいだな。

心の中でそう決めた俺は、いまだに傲慢な態度でふんぞり返っている男に向かって大声で。



「だが断る!」



「……………あ?」



男が不快そうに顔をゆがめる。

が、そんなのは無視してさらに続ける。



「この夢咲ゆめさき真白ましろが最も好きな事の一つは…………自分が絶対的有利にあると思ってるやつに『No』と断ってやる事だ…………ッ!」



元ネタが分からないこの世界の住人達にとっては、ただ突然に俺が不条理ふじょうりなことを叫んだようにしか見えないだろう。

だがそれでいい。


盗賊側には無駄に威圧と殺意をかけて言ったおかげで、半数近くはガクガクと口から泡を吹いて気絶し、それ以外の連中も無意識に数歩後ずさった。

逆に、子供達はぽかんとした顔で仁王立におうだちする俺を見つめている。


その瞳に涙はない。


もしかしたら一周まわって呆れ果てているだけかもしれないが、恐怖で泣いてしまうのよりは百万倍マシだ。




「来いよ、全員とっ捕まえてやる」


「ふざけやがって…………!お前ら、あいつに敵対したことを後悔させてやれぇ!」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る