第112話 センリ






「んあ〜、遥々はるばる斯様かような所まで客人が来るのは久しぶりじゃのぅ………………………んん?まさかこの匂い…………マシロか!?」



飛び出していた三角がピコピコ動いたかと思うと、横たわっていたもの……………いや、人がガバッと勢いよく起き上がった。


崖の上で目を見開いてこちらを見つめるのは、腰まで伸びた艶やかな黒髪を持つ美少女。

……………少女と言うには若干大人びすぎている気がするが。

年齢を言及すると怖いのでとりあえずグラマラスな女性って事で。


褐色の肌にボディラインがはっきりと分かるスク水タイプの服を着用し、ムチッとした太ももは黒タイツに包まれている。

さらには横乳、下乳、谷間が全て拝めるという豪華仕様。

抜群のプロポーションを持つ彼女が着ているのも相まって、穴から覗く褐色の肌が実にえっちぃ。


そして、そんな彼女の頭にちょこんと乗っかっているのは黒色の猫耳で、後ろでは二つに別れた毛先の白いしっぽがふりふりと揺れていた。



「や、久しぶり、せん─────────」


「マシローーーーー!!」


「ぐふぅ!?」



俺が名前を呼び終わるより先に、目を輝かせた彼女がグッと足を折りたたみ、地面にめり込む程の勢いで踏み込んで飛び付いてきた。

全くの予想外な行動に不意をつかれ、モロに衝撃を受けてガリガリと氷を削りながら数メートル近く吹っ飛ばされた。

もうあれだけ綺麗だった空間がヒビやらなんやらで壊れまくっている。


しかし、そんな事全く気にしていなさげな少女は俺に抱きついたまま胸に顔をうずめ、スーハースーハー匂いを嗅ぎながらグリグリ押し付けてくる。

時折顔を上げたかと思いきや、首や頬をザラザラした舌で舐めるのも昔のまま。

しっぽは喜びを表すかのようにこれでもかとブンブン振りまくりだ。

二本な分、荒ぶり方がクロやイナリの比じゃない。


突然の出来事に固まっていたイナリがはっ!と我に返り、何か言いたげに口を開くが、言葉にならず空気を求める魚のようにパクパクと開閉する。

少なくとも「どういう事ですか!?」と言いたいのだけは伝わってくる。


クロに至ってはもう何か目が死んでてそっちを見れなかった。







……………えー、改めて、こちら猫又の仙裡センリさんです。


ちなみに猫又とは百年生きた猫が化けた姿だと言われているが、それは猫の獣人にとっても同じらしい。

センリと出会ったのは百年前くらいで、とある依頼で俺がこの地を訪れた時だ。

当時もこの洞窟に住み着いていて、雨宿りがてらここに入った際に気配を追ってたどり着いたのがこの最奥の空間。

あの時も同じようにそこの崖の上で寝ている所を見つけた。


最初は戦闘こそしたけれど、すぐにそんな事はやめた。

なぜかって?

センリが戦いの途中に大変俺の匂いを気に入り、正直それどころじゃなくなったからだ。

センリいわく、俺の匂いはマタタビに近い効果があるらしいのだが………………本当なのだろうか。


まあ俺も別に戦いたい訳じゃなかったのでさっさと終わりにして、そこから小一時間ほどセンリに匂いを嗅がれたり撫でたりして過ごし、雨が止んだ頃合いを見計らってさよならした。


それからもセンリに頼まれて何回か会いに来たりしていたが、行く度にクンクンされたんだよね…………。

今回も嗅がれるだろうとは思ってたけど、さすがにあのジャンピングアタックは予想してなかった。


最近会ってなかった分、我慢しきれなかったのだろうか。

まさか出会い頭の一撃で死にかけるとは……………だが、エッチな谷間と感触を味わえたので本望だ…………。




「……………………主?」

「はっ!」



上から声が降ってきて目を向けると、膝を折りたたんでしゃがんだクロがじっと俺を見ていた。

それはもうじ〜〜っと。

普段の無表情だけでなく、今はそこに謎の圧も加わっていて非常に怖い。


せめて何か言って欲しいな!?

無言だがずもも…………と迫ってくる圧と疑惑の視線がグサグサ刺さる。



「あなた誰。早く主から離れる」

「ん?お主こそ誰じゃ。最後会った時にはらんかったのぅ……………マシロとはどういう関係じゃ?」

「クロは主の盾であり矛。そして妻」

「つ、妻じゃと!?」



警戒心ダダ漏れの二つの瞳が交差し、いきなり放たれたクロの言葉のジャブがセンリにクリーンヒット。

その綺麗な朱色の目を驚愕に染めてこちらをばっ!と見る。

そして、がっしりコートの襟首を掴むと。



「マシロ、どういう事じゃ?ワシよりこんな小娘を選んだというのか?ん?」

「ぐえっ!?ちょ、タンマ…………!」



笑ってない笑顔でぐわんぐわん前後に揺さぶられまくる。

く、クロ…………ドヤ顔してないで助けて…………今こそ盾と矛の出番だから…………!


クロのドヤ顔はむしろセンリの怒りの火に油を注ぐだけである。

お互い相手が同類の黒猫なためか、ものすごく張り合っている。


こいつにだけは負けたくないオーラをビンビン感じるぞ…………。

仲良くしようよ、仲良く。



「(ガブッ)」

「いたぁ!?」



え、なに、なんで今噛まれたの!?

センリは抱きついたままくっきり歯型がついた首筋をぺろぺろ舐めてから顔を上げる。



「何って、マーキングに決まっておろう。これでマシロはワシのものじゃ!」

「ん、そういう事ならクロが上書きする」

「あ、そういうのってこっちでも変わんないんだ……………いたい!?」



クロまで上書きとしょうして反対側の首筋に噛み付き始めた。

このままではどちらかが引くまでずっと続くマーキングタイムに突入しそうな勢いだ。

うぅむ、なんとかこの無限ループを抜けないと……………あ、そうだ。



「せ、センリ、シュカとは久しぶりの再会でしょ?せっかく来てくれたのに放置するのもなんだし、積もる話でも────────」

「シュカか?あいつはとっくにワシが居た場所で寝ておるぞ」

「嘘でしょ?」



そう言えばさっきから静かだと思ったら!

いや、もちろん放置して戯れてた俺達が悪いんだけどね?

山道での疲れが襲ってきたのか、たしかにあの崖の上でヨダレを垂らしながら爆睡しているシュカを見つけた。

どこからかちゃっかり布団を持ってきてるし……………。


なんてこったい。

うーん、どうしたものか。

せっかく来てもらったのに申し訳ない……………まぁシュカ的にはどちらにしろ仕事はサボれるから気にしてなさそうだけども。


…………………これだと予定してた順序と逆になっちゃうけど、まあいいか。




「センリ、実はお願いがあるんだが………………」

「ん?なんじゃ、やっとワシをめとる気になったかの?」

「ちがわい。そうじゃなくて───────」



実は今日は他にもちょっとした目的があった。

シュカとセンリの再会とは別の本題について言おうとすると、未だまたがってクロとバチバチやってたセンリが人差し指で俺の口を塞ぐ。



「そんなに即答されるとワシも悲しいんだが……………まぁ、みなまで言わんでよい。ワシに任せておけ」

「…………!悪いな、頼む」

「うむ。ご褒美は今着てるシャツと抱擁で手を打とう」

「………………………考えとく」



要求がある意味重すぎるのは置いておいて、こころよく承諾してくれた事には感謝しなければ。



「そういう訳だ。小娘………クロだったか。ワシに付いてきてもらうぞ」

「……………………ん」



クロもなんとか説得して、後はセンリに任せる事にした。

どうやらあまり他人に見せたくないようなので、俺達はこの部屋で待機。

二人は隣の部屋に行くようだ。





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