第109話 酒豪達






「んくっ、んくっ………………ぷはぁ〜!ん〜、もう一杯〜!」



傾けていた木製のジョッキから口から離し、ドンッ!と机に置く。

頬をほんのり赤く染めたシュカがジョッキを掲げ、若干呂律ろれつが回らなくなってきた声でそう放つと、すぐに奥のカウンターから「はいよ!」と聞こえ、シュカが今持っているのと同じジョッキが運ばれて来た。


そこになみなみと注がれているのは、シュワシュワと音を立てながら泡を浮かび上がらせる黄色い液体。

いわゆるビール、こっちの世界の言葉で言えば"プロスト"である。

軽く缶ビール二、三杯分はありそうなそのプロストを、またもや思いっきりあおってゴクゴクと一口で飲み切ってしまう。


その豪快な飲みっぷりに、周囲で木の丸テーブルを囲んでいた人々が歓声を上げた。



「ひゅー!すげぇぜ嬢ちゃん、大ジョッキを一気飲みとか酒豪どころの話じゃねぇぞ!」

「化物かよ!どんだけ飲めば気が済むんだ!?」



ヒック、としゃっくりしながらドンッ!と置いた机には、既に数えられないほどの空になったジョッキ達が、重ねられたり倒れたりして適当に放置されていた。

これも全部シュカが飲んだ物の残骸だ。


しかも、全てが先程言っていた大ジョッキと言う、このお店で二番目にデカいサイズ。

もはや合計で缶ビール何杯分あるかなんて怖くて数えたくもない。


よくこんなに飲んで意識保ってられるな……………。

さすがは酒呑童子と言われるだけはある。

てかそれ以前に、この量飲んで胃は大丈夫なのか?

タプタプどころか、はち切れてもおかしくない量を飲んでる気がするんだけど。


横でチビチビ飲んでた俺は五杯目で結構いっぱいだ。

こっちの世界に来てからはスキルや肉体の物理的な強さのおかげで、がんとかアルコール摂取度は気にしなくて良くなったけど、いかんせん胃の小ささはどうしようもないからなぁ。

しかも一般人からしたらビール何十杯はいくら何でも体に悪すぎる。

体の構造が異常な俺やシュカを除いて、普通の人がこんなに飲んだら────────。



「お、おい!この人達まねして大ジョッキ飲んだ奴が倒れたぞ!?」

「馬鹿か!?あんなの人間業じゃねぇよ!医者呼べ、医者ぁ!」



言わんこっちゃない。

シュカの飲みっぷりを見て触発されたどこかの誰かが同じ大ジョッキを頼み、二杯目で目を回して倒れてしまったらしい。

何やってんだか…………。

盛り上がるのは結構だけど、自分の適量はちゃんと考えないと。


男二人に担がれ、医者の元へと運ばれて行く人を横目にグイッとジョッキを傾ける。




さてさて。

言い忘れていたが、ここは大陸の西にある"セルキス"という名の小さな国。

総面積が東京より小さいと言っても過言では無いほどで、前に言っていたプロスト(ビール)の名産地でもある。

その中でも特にプロストの生産で有名な村に俺達は来ていた。


この村からさらに歩いて三十分の所に大きな祠か洞穴があり、そこに目的の人物が居る…………………………はず。

たぶん。

あいつはマイペースだからな…………。

もしかしたら他の場所に行ってしまった可能性も捨て切れないが、あそこは気に入ってたし、たぶん居るだろう。




………………ちなみに言っておくが、なにも何の意味もなく昼間っからプロストを滝のように飲んでいる訳では無い………………………………すみません嘘です。


いや、本当はそのまま行くつもりだったんだよ?

でもシュカが素面しらふで会うのはちょっと…………と言い出したのが発端で。

と言うのはあくまで建前。


ここがプロストの名産地だと知ると、実はお酒好きだったシュカと意気投合して、あいつに会いに行く前に軽く飲むか〜!となった訳でして。

そりゃずっと探してたプロストを見つけたんだから、飲むに決まってるでしょうが!


で、そうやって二人で飲んでたらいつの間にか酒場が盛り上がり始めて………………あ、ちなみに付いて来たクロとイナリは今、近くの市場でショッピング中です。

さすがにここには連れてはこられないからね……………。



「てかそう言えば、あの子何歳なんだ…………?プロスト飲んでいい歳には見えないが…………」



全くもってその通りである。

シュカの正体は何百年も生きている大妖怪だが、見てくれはただの鬼人族の幼女。

何も事情の知らない人が見れば完全に違法っぽいが、一応合法だ。

一応。


この人達、シュカが普段からを常備してるって知ったら、どんな顔するのかな…………。



「よし、そろそろ行くか。クロとイナリも待ってるだろうしね」

「んえぇ〜、もっと飲も〜よぉ〜。ボクまだ全然満足してないよ〜?」




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