第106話 終幕
「あ、言い忘れていたが、二人が満足するまで出られないからな。頑張るのだぞー!」
「「え?」」
それだけ言い残してブツッ!と映像は途切れ、残された二人の間抜けな声が虚しく薄紫の空間に響いた。
………………………………………………………。
場を支配するのは沈黙。
………………皆、わざわざこんな空間を作ってまでイナリの事を…………。
呆然と虚空を見つめていたが、すぐに気を取り戻す。
クロもあんなに抜かされるのが嫌だって言ってたのに……………何やかんやでイナリの事は嫌いじゃなかったっぽい。
いや、それとはまた別に、イナリに先を越されても構わないと判断する理由が何かあったのか………。
ともかく。
ここまでお
「…………………イナリ」
「えっと、はい…………」
「……………その、"する"か…………」
「──────────っ!!」
自分から言い出すのはやはり気恥ずかしくて、少し目を逸らしながら小さな声で。
息を飲む気配がした。
次の瞬間、タタッ!と軽く地面を蹴る音と共に、唇に柔らかいものが押し付けられた。
目を見開くと、目の前にはルンルンでテンション爆上がり状態のイナリが。
そのまま倒れるように俺をベットに押し倒し、濃厚な……………本当に濃厚なキス。
俺とイナリ以外何者も存在しない空間に、
たっぷり数十秒の口付けを終え、離れた俺とイナリの間には艶めかしい銀の糸が繋がっていた。
「はぁ、はぁ……………ん、やっぱりご主人様は
イナリが荒い息使いで、自身の唇をぺろりと舌で舐める。
この雰囲気も相まって、イナリが起こす一つ一つの仕草が妙にエロく感じてしまう。
改めてさらけ出されたイナリの裸体を目の前にして、俺はゴクリと生唾を飲む。
美しい……………。
俺へと影を落とす小麦色の髪はキメ細かく艶やかで、同色のキツネ耳としっぽはいつ見てもふさふさで愛らしい。
肌はシミなんて知らんと言わんばかりの綺麗さを誇り、肌色と淡いピンクで
さらにはムチッとした太もも、そして秘部までも堂々とさらけ出して、ゾクゾクするような
まるで神が造形したかのような完璧なスタイルに容姿。
俺はただひたすらに、その美しい姿に
イナリの裸体を余すことなく脳裏に焼きつける。
既に愚息は我慢の限界だ。
固まってしまった俺を急かすように、器用にしっぽまで使って俺の浴衣をはだけさせ。
ぺいっ!と浴衣を放り投げ、イナリがうっとりした吐息を漏らす。
もう我慢なんて出来ない。
「きゃっ!?」
くるりと体を回転させて、今度は反対に俺がイナリを押し倒した体勢に。
「………………ったく、結局イナリに堕とされちゃったなこりゃ」
「ふふふ。もしかしてご主人様、意外とチョロインだったんですか?」
「んな訳ないでしょうが。イナリじゃなきゃこうはならなかったよ。イナリだったから好きになったんだ」
「はぅ!?」
あの残念さを見てから惚れるって中々無い………………ってあれ、どうした?
視線を落とすと、なぜかキツネ耳としっぽをこれでもかと荒ぶらせたイナリが、"あぅあぅ"と言葉にならない声を漏らして顔を覆っていた。
指の間から覗く顔は耳に至るまで真っ赤である。
「……………ご主人様、一つお願いがあります」
「ん?」
「"
「真名は、生涯を共に生きると決めた大切な人にのみ明かす名。これをご主人様が口にすることによって、私達の間に
「なるほどな…………。分かった。神狐稲荷………俺は、君と生涯を共にすると誓うよ。いつまでも一緒に居よう」
もはや結婚式で言うような甘いセリフと共にキスをすると。
キィン───────。
と澄み切った音が辺りに響き、俺とイナリを中心に描いた真っ白な輪が二人を囲んで弾けた。
「嬉しいです…………やっと、ご主人様と一緒になれました…………!」
喜びのあまり目尻に涙を溜めるイナリと見つめ合い、どちらともなく顔を寄せてキスをした。
そして、長くも短い夜が始まった。
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