第104話 なぜそのネタを知ってる?






突如として繰り広げられた、どこぞの部族の儀式と言われても全く違和感の無い────────と言うかむしろ儀式そのものな事態に。

戸惑いを隠せず、襖の前で手を出したり戻したりして立ち尽くしていると。



「お、マシロ。戻って来てたのか」

「え、あ、うん、そうね…………」



すっとふすまが開き、やはりどこぞの部族の衣装のような物を着たノエルが出迎えてくれた。

見間違えじゃなかった。

むしろ見間違えであって欲しかった。


改めて見るとすごいの着てるな………………。

露出度が高い…………と言うかもはやほとんど布地が無い衣装に、ちゃっかり顔や体にまで模様を塗っているあたり本気度を感じざるを得ない。

何があったら温泉旅館の一室でこんなのを着ることになるのだろう。



「えっと、それどうしたの…………?」

「これか?これはイナリの故郷でやる儀式で使う衣装らしくてな。こうやって新しくつがいになった者を皆で厄祓やくばらいして、二人の幸せが長く続くように祈るらしいのだ!」



いやまぁ厄は逃げそうだけども。

これ一緒に幸せも逃げ出してない?

厄と幸せが駆け落ちしてない?



衣装が若干ほんのちょっとクレイジーな事を抜いたら、案外いつも通りでまともな様子のノエルに一安心し、ほっとして部屋の中に目を向けて────────────俺は頬を引きらせた。




「あの、ノエルさん?」

「どうしたのだ?」



「えっと……………イナリは?」




そう、先程まで確かに部屋の中央に亀甲縛きっこうしばりされて吊るされていたはずのイナリが、その縄ごと忽然こつぜんと姿を消していたのだ。

ただ数本のロウソクと足元に描かれた魔法陣だけが残されている。


まるで神隠し。

実際に目の前にリアル神様が居ると笑えない。



「ああ、イナリは先にあっちに行ったのだ」

「あっちってどこ!?」



いやそんな当たり前のように言われましても。

アイリスもクロもうんうん頷いてるけど、マシロさん一ミリたりとも分かんないよ?

あと今思ったけど、絶対この儀式、少なくとも何かしら間違ってるでしょ。

教えたはずのイナリが泣き叫んでたからね。



「あの、なんでにじり寄ってくるんですかね!?」


「まあ安心するのだ、マシロもすぐあっちに送るからな」

「ん。主、クロ達に任せて」

「ご主人様、大人しくしていてくださいね?」



その衣装でじりじりと距離を詰めてこられたら恐怖しか感じないんだが。


……………………よし、今は戦略的撤退だ!

イナリ、あとで必ず助けてやるからな!



「捕獲、なのだ!」

「いえっさー」

「了解です!」


「あべし!?」



逃げ出そうとした矢先、アイリスとクロによるたくみな縄操作によって、あっという間に縛られて捕獲されてしまった。

これまた巧みに縄を引っ張って一瞬で俺を手繰たぐり寄せると、三人して俺を持ち上げてよっこらせ、よっこらせと、いつの間にか部屋の隅に作っていた紫色の穴の前まで運ぶ。

これは何度も見た事のある、ノエルが神気によって作った異空間への入口だ。


そこにぺいっ!と放り込まれた。




「ちょ、せめてこれ解いああああああああ─────────!?」



体を浮遊感が包み込み、がっちり縄で両腕を縛られた俺は抵抗する間もなく、頭から真っ逆さまに紫色の穴に吸い込まれた。








          ◇◆◇◆◇◆









「──────さま!───────じんさま!──────ご主人様!!」



「─────────はっ!」



何度も体を揺さぶられながら呼びかけられた事によって意識が覚醒し、ばっ!と目を見開く。

目の前には涙目のイナリ。

涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で俺を見下ろしていた。



「ふえぇぇぇん!ご主人様ぁ、怖かったですぅ…………!」

「おぐふっ!?」



感極まったイナリが思いっきり飛びついてきて、容赦ないその頭突きが的確に鳩尾みぞおちにめり込んだ。


ぐふっ、むしろいつも通りのイナリに戻ってて安心したぜ……………。


この残念さがあってこそのイナリである。

もはや敵地での感動の再会みたいなノリで涙を流すイナリは、ぐりぐりと俺のお腹に顔を擦り付けてしっぽをブンブン振り回す。

よほど怖かったらしい。

一応言っておくけど、これ旅館での出来事よ?


苦笑いしてイナリを慰めながら辺りを見回す。

結構広々とした円形の空間。

ある一定の領域より外は淡い紫色のモヤで覆われており、家具を始めその他の物は存在しない。




………………………………………中央に置かれた無駄にデカいベット以外は。




キングサイズの大きなベット。

何に使うかは言うまでもない。

これを含め、の様子だ。


しかし、唯一見覚えのない看板が宙に固定されていた。

俺とイナリの視線がそれに集まる。



そこにはこの世界の共通言語で。





"×××しないと出れない部屋"、と──────────。





「ちょっと待ったぁああああああ!!!」





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