第103話 ???
「んくっ、んくっ…………ぷはぁ!」
俺は腰に手を当てて体を逸らしながら何度も喉を鳴らし、最後の一滴まで飲み切ると、手に持っていた半透明のビンを口から離して宙に掲げた。
「あ〜!温泉と言えばやっぱり牛乳だよなぁ!」
こういうの飲むと温泉来たなぁって感じがするよね。
俺は外の見える窓辺の椅子に腰掛け、一人うんうん頷く。
フロントのお姉さんに教えてもらったおすすめのお店で買ったコーヒー牛乳モドキ。
お姉さん
まぁ"らしい"と言うか、作り方自体は大して前世と変わりないみたいだけど。
こっちの世界にもコーヒー豆(?)があった事に驚きだ。
………………あっ、そういえばそれよりもっと驚きの情報をお姉さんから聞いたんだった!
なんと、その西側にある国の一部の地域には、俺がずっと探していた辛めのビールに似た特徴を持つ飲み物があるそうで。
名前を聞いて驚いた。
まさかの昔、俺が行ったことがある地域。
たしかなんかの依頼で行ったんだけど、その時は見つけられなかったんだよね…………。
痛恨のミスすぎる。
だがこれでついに
「さてさて、そろそろ部屋に戻ろうかな〜っと」
からになったビンをゴミ箱に捨て、エントランスの横を通り過ぎて部屋に向かう。
先程確かめたが、既にもう良い時間帯だ。
ほとんどの人が寝静まっていて、薄暗く照らされた廊下には地面と擦れ合うスリッパの音だけが響く。
…………………………にしてもイナリ、まさかお風呂上がりからずっとニマニマしてるとは。
歩く
あれからご飯を食べる時も、外の景色を眺めている時も。
ふとした時に、「えへへ…………」と頬をだらしなく緩ませては、幸せそうにニマニマ微笑んでいたのだ。
時にはいくら俺達が声をかけても気づかないほど。
なんかそんなに喜ばれるとこっちまで恥ずかしくなってくる。
………………てかよく考えたら、実はイナリと出会ってからそこまで時間が経ってないんだよな。
それからの出来事が濃すぎて、もっと前から知り合っていたようにさえ思えてしまう。
最初は全然なんとも思ってなかった。
ものすごい勢いでアタックしてきて、何度断っても雑な扱いされてもへこたれなくて。
ただひたすらに諦めの悪い残念キツネ。
俺は、イナリのそんな所が好きだ。
残念な所も、うるさいくらい元気な所も、少しバカっぽい所も、だんだん愛おしく思えた。
いつの間にか、あれだけ自分で無いと言っていた事が現実になった。
偶然でもなんでもない。
イナリが諦めずひたすらにアタックし続けた結果、こうなったのだ。
"好き"に対していつも全力で、決して譲らない。
それがイナリの魅力なんだと思う。
誰も居ない、静かな廊下を歩き終え、俺は一つの
"
俺達が泊まっている部屋だ。
一つ深呼吸…………………って、何を今さら緊張してるんだ俺は。
イナリがあんな反応するから、つい俺まで身構えちゃったぞ。
別に番になったからと言って前と接し方が変わる訳でもないし、普通に話せばいいんだよ、普通に───────────。
何となく、こほんと咳払いして、浴衣を
「びええええええぇん!!助けてください、ごしゅじんざまーーーーー!!」
「「「…………………………………」」」
どんどこどんどん、あ〜それそれ。
……………………?
イナリが
いや自分で何言ってんだって思うけど、本当なんだって!
明かりを消した部屋で数本のロウソクに明かりを
俺は宇宙ねこになった。
ズンドコズンドコズンズンズン。
突然の謎すぎる現象に俺の頭の処理速度がついていけず、逃避気味にフィルターがかかって、二頭身のデフォルメされた姿の映像が流れ込んでくる。
それくらいには衝撃的かつよく分からない光景だった。
宇宙ねこ化は必須だった。
デフォルメ姿なら若干
「あっ!ご主人さ───────」
「▄▃▊▂■▌▆▊▃▊▊▃▇…………………」
スパァンッ!!
もはや呪いでは?とツッコミたくなってきた所で、俺は思いっきり襖を閉じて見なかった事にした。
イナリの表情が、希望を得てから絶望に至るまでコマ送りのように変化していた気がするが、それでも見なかった事にした。
頭の上には"?"しか浮かんでこない。
夜中なのにめちゃくちゃ大きい音を出してしまったとか、そんな事すら考えられないくらい頭の中を"?"が占領している。
…………………う〜ん、もしかして俺疲れてるのかな?
今、気のせいでなければ前世はもちろん、こっちの世界に来てからでも初めて見るくらいよく分からない事態が起きてるんだけど。
なに、もしかして儀式なの?
イナリを生贄にして何か呼び出すつもりなの?
てかそれ以前になぜ亀甲縛り…………?
とにかく誰が、なんで亀甲縛りを知ってるのか後で問いたださないとな…………………って違う違う、そうじゃなくて。
え、どうしよう、もう一回開けた方がいいのか?
放置……………はさすがにイナリが可哀想だし…………でもすごく開けたくないなぁ。
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