第102話 一撃必殺
「むぅ〜!そうやってまた皆さんだけの空間を作っちゃって!私も混ぜてくださいよぉ!」
先程までいい感じの雰囲気だったのにもかかわらず、一瞬で文字通り全て持ってかれたイナリが泣きべそをかく。
とりあえず前を隠して前を。
ムキーッ!と
おかげで女の子の絶対領域どころか、秘密の花園や実る二つの果実の先端のピンク色など、全てが赤裸々にさらけ出されている。
眼福眼福、ご馳走様です。
もはや慣れたもので、…………………いや、それはそれでどうなんだ?
女の子の裸に慣れてる男って…………。
まぁともかく。
飛び上がって喜ぶのではなく、しみじみと頷きながらそっとその光景を脳内に焼き付けた。
さて。
……………せっかく皆が時間を作ってくれたのに、結局ちゃんと言えなかったな………………。
改めて現状を良く理解し、自己嫌悪に陥ってしまった。
こういう時にビシッと出来るような人になりたいよ本当に。
実はこの露天風呂に入る少し前、イナリを除くノエル、アイリス、クロに、「イナリと話をするから少し遅く来てくれないか」、とお願いしていたのだ。
察しの良い皆は何となく分かっていたようで、一つ返事で承諾してくれた。
準備は整った、後は俺が気持ちを伝えるだけ。
満を持して露天風呂で待っていた。
で、いざ告白しようとした時………………イナリの涙を見てしまった訳で。
もう頭が真っ白になって、考えてた計画とか全部吹っ飛んだ。
キスした後も気の利いた言葉なんてなくて、やべぇ深刻な雰囲気だどうしよう………………と思ってたらまさかのディープすぎるキッス。
いや別に嫌とかそんな事はなくてむしろ嬉しかったけども?
「……………ごめん皆、ほんの少しだけ時間ちょうだい」
「ほえ?ご主人様、どうしたん───────はわぁ!?」
さすがにこのままでは終われない。
男を見せろ夢咲真白!
若干顔が赤くなるのを自分でも感じながら、己を鼓舞するようにむんっ!と胸を張る。
膝の二人を降ろして立ち上がり、ぽけ〜っとしたイナリをお姫様抱っこ。
皆に見送られテッテケテーと離れた岩陰の方に走って行った。
「は、はわわっ…………!?こ、こんな岩陰に連れて行って何を…………はっ!もしかしてここで私の初めてを─────────」
……………………テンション高いなぁ、イナリ。
なんか、俺がここまで深刻に考えたのはなんだったのかと思えてくるぐらいテンションが高い。
打たれ強すぎる。
転げ回るイナリに苦笑しながら。
「俺さぁ…………イナリはすぐに諦めると思ってたんだ」
「うぅ…………な、何をですか………?」
「俺と番になることを」
「っ!」
額を押えて涙目だった表情が一転。
心底不満そうな、ムスッとした表情に。
簡単に言うとキレてる。
「酷いですねぇ、そんなふうに思ってたんですか?私の気持ちは───────」
「うん、そんなに軽くなかった。驚くほど本気だった」
最初はすぐに諦めると思っていた。
しばらくすれば離れてく、って。
でも、そんなこと無くて。
「毎日バカみたいに突撃してきて…………雑な扱いしてるのに、全くへこたれないし」
「雑な扱いの自覚はあったんですね………」
「ごほんっ。…………とにかく、それが嬉しかったんだ」
日を増す毎に、あの陽だまりのような笑顔を見たくなって。
気づけば、自分から足を運ぶようになってた。
嬉しそうな笑顔も、からかった時の怒り顔も、無視された時のしゅんとした顔も。
……………知らぬうちに、俺の中でイナリの存在が大きくなっていた。
それを自覚したのは、やはりあの時だろう。
「"俺の女に手を出そうとしておいて………"。えへへ、かっこよかったですよ?」
「俺的には恥ずかしいんだけどね」
何せ散々、"番になる気は無い"と断り続けていたイナリさえも自分の女扱いだ。
どれだけ都合が良いんだか………。
どこかでイナリが折れていれば、こんな結果は有り得なかった。
"ぜぇぇったいに、ご主人様を振り向かせてみせますからぁあああっ!!!"
かつてイナリが言い放った言葉を思い出し、自然と淡い笑みが漏れる。
まさか本当に有言実行するとは………。
イナリの一途な想いに、俺も応えなければならないだろう。
「イナリ。今さら色々と言うつもりは無い」
「はい」
ただ一言。
ずっと、イナリが言っていたように。
「俺は…………イナリが愛しい。俺と、番になってくれ」
「……………はいっ!もちろんですぅ!!」
涙ぐんで、少し濁音が混じった声。
しかしそれは今までの残念さとは無縁で。
俺が惚れた、あの陽だまりのような笑顔の何倍も明るく、美しい笑顔。
気が付けば俺はイナリを抱き寄せ、そのまま自然と唇を重ねていた。
〜数分後〜
「よっと。皆、ありがとね」
「ん、致し方ない。イナリは手がかかる」
「ふふっ、すごく幸せそうな顔ですね」
「うむ。マシロ、一体何を言ったのだ?あの騒がしいイナリがここまで大人しくなるとは」
「……………うん、まぁちょっとね」
再びイナリを抱えて帰ってきた俺の周りに皆が集まり、そろってしゅー…………と煙を上げて顔を真っ赤にしたイナリを覗き込む。
いくら目の前で手を振っても、ぺちぺち頬を叩いても、ずっと「ふへ………ふへへ…………!」と口元をニマニマさせるだけである。
ケモ耳は嬉しそうにピコピコ動きまくり、しっぽはきゅっと俺のお腹に巻きついて一ミリたりとも離れようとしない。
たぶんしばらくはこのままだろう。
何を言ったのかは………………………まぁ、二人だけの内緒だ。
その後、皆で仲良く露天風呂に浸かり、のぼせる一歩手前であがった。
ちなみにイナリはずっとお姫様抱っこ状態で放心して動かなかったため、タオルで体を拭き浴衣を着せるところまで皆で協力してやった。
………………………合法的に女の子の肌に触れれましたありがとうございます。
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