第88話 フィジカルモンスター(2)
復活したドラゴンゾンビが首をもたげてブレスを吐こうとするが、すぐさま力いっぱいのアッパーを喰らって首が半分ちぎれかけた。
さらに、そんな状態にも関わらず痛覚が無い故に起き上がって反撃を試みても、何かする前に全てイナリが潰してしまってドラゴンゾンビは何も出来ず、ただ一方的にボコられるだけである。
「んんぅ〜〜〜っ、とりゃあぁぁぁっ!!」
そんな可愛い掛け声とは裏腹に。
鋭い飛び蹴りがドラゴンゾンビの胸にめり込み、ベキボキ!と鈍い音を立てて壁際まで蹴り飛ばした。
壁に激突し、激しく吐血(?)する。
すでに瀕死に近しい状態だ。
だが、さすがアンデッド。
致命傷すら無かったことにする再生力であっという間に傷を癒していく。
どうやら先程の攻撃は光属性の魔力を纏っていなかったらしい。
「えへへ………!どうですかご主人様、私の活躍は!惚れ直しちゃいました?」
「はいはい、惚れ直した惚れ直した。それより、イナリって光属性の魔法って使えないんだっけ?」
「まさかのスルー!?返事が適当すぎますぅ!」
「もうちょっと真面目に褒めてくれたっていいじゃないですかぁ!」と涙目のイナリが訴えかけてくる。
真面目に褒めるって何よ…………。
まだ気を抜いちゃダメなんだけどな………………まぁ、イナリも頑張ってるのは本当なんだよね。
…………………………ったく。
こんな時でもご褒美を求めるその姿勢に負けて、苦笑いしながらまたぽんぽんと頭を撫でてやる。
それだけでふんすっ!と鼻息荒くやる気を出すんだから、イナリは安上がりだ。
あ、クロもか。
ケモ耳っ子二人は撫でられるのが好きらしい。
「はわわ………!ご主人様が本当にデレ期ですぅ………!」
「…………………で、光属性の適性は?」
「あっ、はい!ご主人様の言う通り、光属性の適性…………と言うか魔法の適性自体、全くありません」
「え、全く?」
「はい!」
そこは誇らしげにすんなっての。
ドヤ顔で適性ありません、と言い放ったイナリのこめかみにチョップを喰らわせる。
いや、別に適性が無いのが悪いって言ってるわけじゃないからね?
それは人それぞれの才能で本人がどうこう出来るものじゃないし。
じゃあなんで叩いたのかって……………………なんでだろうね。
ノリツッコミ的な?
「えへへ…………」
「叩かれて喜んでる……………まさか、ドM………?」
「ドMじゃないですよ!?違くて、これはご主人様との何気ない会話が幸せで─────────あれ、ご主人様?どうして距離を取るんですか?…………………ご主人様!?」
「いや、ごめん………俺、至ってノーマルな性癖だから………」
「ガチトーンやめてくださいよ。ちょっと待ってください、いつまで私がドMだって話引きずるんです────────!?」
『ゴアアアアアアアアアッッ!!!』
目を逸らしながらすすっ、と距離を取ろうとする俺の両肩をイナリががっしり掴む。
まぁ、イナリがドMだったという衝撃の事実(冗談)はさておき。
…………………「さておかないでください!」というイナリの叫びもさておき。
さっさと再生していたのに無視され腹を立てたドラゴンゾンビが、怒りの
うへぇ、地面が溶けてらぁ…………。
「しょうがない、こいつは俺が相手するから」
「うぅ、すみません………」
「別に凹む必要は無いさ。イナリは鬼人達を頼む」
「はい…………」
気にするなとは言ったものの、やっぱり役に立てないのが悲しいのか、どこかしょんぼりした様子で鬼人が集まる場所に向かおうとするイナリ。
…………………う〜む、仕方ない。
「イナリ」
「?…………ご主人様?」
ハテナ顔で振り返ったイナリの顔を、若干失礼とは分かりつつじっと見つめる。
少し無言の間が空いて、イナリが頬を染めながらモジモジし始めて挙動不審になってきた頃。
俺は再び口を開いた。
「………………帰ったら、イナリのしっぽと耳もふもふしていい?」
きっと、イナリからすれば予想外の言葉だったに違いない。
無駄にキメ顔の俺とぽかんとしたイナリの間を、静かに風が通り過ぎていく。
戦場では到底耳にしないであろう静寂。
また、少し間を開けて。
「────────っ、はい!もちろんです!!」
にぱっ!と元気いっぱいの満面の笑顔で返事をすると、イナリは上機嫌で向こうに走って行った。
本当に、単純なやつだ。
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