第48話 終幕(4)






「よっこいせ、っと。…………ふぅ、とりあえずこんなもんか」



アイリスとクロ、さらにはプラトス達を迎える歓迎会を開き、騒がしい食卓を囲んでから三時間ほど経過した。

俺はそれまで行っていた作業を一旦止め、額の汗を拭いながら一息つく。

よしよし、良い感じだな。


出来上がった目の前の物を見て一人うんうんと頷く。

食器洗いなどを済ませた俺は、満腹で野原に寝っ転がっていたプラトス達のために、我が家の隣に簡易的な小屋を作っていたのだ。

さすがに、軽く馬並みのサイズはあるプラトスを家に入れることは難しい。

そのためプラトス達専用の小屋なり何なりを作る必要があるのだが、こう夜になってからでは危なくて作ろうにも作れまい。


という訳で、簡単な作りで申し訳ないが、数日の間はこれで我慢してもらおう。



あとはわらを敷いて、と…………。

向こうで戯れ合うプラトス達を呼び、一緒に藁の束を運んで小屋の中に広げる。

これで完成だ。



「大丈夫そう?」

『クルァ!』



大丈夫らしい。

藁の上にダイブして嬉しそうな鳴き声を上げるプラトス達。



「じゃ、また明日ね。おやすみ」

『クルル……』



それぞれの額を撫でながらそう伝えると、少し寂しそうにしながらも渋々といった様子で寝転び、こちらを見ながら小さく鳴く。


小屋を立てるためにつけていた灯りを消すと、一気に辺りが闇に包まれた。

家の窓から漏れる光が、ほんの少しだけその周辺を照らしているだけだ。

やはり周りに他の人の家が無く、街灯などの灯りも何一つ無いとものすごく暗い。


村からの光が唯一の頼りだ。

実際に俺はほとんど何も見えない。

手探りで家の壁に沿って歩き、村がよく見下ろせる場所まで移動する。

眼下の村はすでに夜中に差し掛かった時間帯のためか、あまり外に出ている人は見当たらない。



「………………………」



とても静かだ。

そよそよと心地いい風が草木を揺らし、頬を撫でて通り過ぎて行く。



…………一日目は俺の腕を抱き枕にして寝ちゃって、それを子供達にからかわれたんだよな…………。

脳裏に過ったのは、アイリスや子供達と一緒に過ごした一週間の出来事。


二日目は隣に座ってたアイリスが顔を真っ赤にして、一日中、口を聞いてくれなくて、三日目は調子が戻って、俺が持ってきたお菓子を美味しそうに食べてた。


そんでもって四日目は川で遊んで、五日目は襲ってきた魔物を二人で撃退したっけ。


六日目には雨宿りのために森に入ったはいいけど、服がスケスケになったアイリスにドキドキさせられた。


そして、七日目に王都に着いた。



その他にも二人で話しながら夜更かししたり、子供達の要望に応えてネタみたいな魔法を披露したり。

初日のがさらにグレードアップした膝枕寝落ち事件なんてのも起きた。

短いっちゃ短い時間だったけど、アイリスと…………もちろん子供達との思い出がいっぱいある。



──────アイリスが好きか。



今そう問われても、俺は好きだと断言できる自信がない……………と言うより、自分の気持ちが分からない。

忘れてはいけないが、俺はいつまで経っても恋愛に関しては初心者だ。

なんならチキン。


だから色々と面倒な事を考えてしまう。

単純にアイリスが一目惚れだって告白してくれて、自分もアイリスを憎からずに思っているのだからそれで良いじゃないか。

そう納得出来ればどれだけ楽か。


う〜む、まだ前世の価値観とかもろもろ引きずってるな……………。

決してそれがダメな事という訳ではないが、そろそろこっちにも慣れないといけない。

こっちだと一夫多妻制は当たり前。

なにより、前世でオタク全開だった時はこういうのを望んでいたはず。

ハーレム願望が人一倍大きい……………と、勝手に自称していた。


…………………………まぁ、それは置いておいて。




「さて、戻るか」






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