第47話 終幕(3)
ピクピクッと耳を小刻みに震わせたクロが、ガバッ!と起き上がってしきりに辺りを見回す。
あっちへピコピコ、こっちへピコピコ、忙しなく震え続ける。
やがて何かを感じ取ったのか、一方向を指さすと。
「………主、あっちから来る」
「お、ほんとだ」
クロに言われて気がついたが、おそらく魔物と思われる気配がすごいスピードでこちらに向かってきていた。
速い………が、数は三つと少なく感じる魔力もそこまで大きくない。
王都を襲撃しに来たのか?
まぁ、これくらいの強さなら、放っておいても大丈夫だと思うけど……………んん?
「なんか、こっちに向かってきてないか?」
「ん」
ドドドドッ!と足音が聞こえる距離まで来たなと思ったら、なぜか急に進行方向を変えてこちらに接近し始めた。
どうやら王都への襲撃ではなかったらしい。
狙いは初めからこっちだったのか………………え、なんで?
『ギャオオオオッ!』
魔物の鳴き声だ。
…………どこか、聞き覚えがあるのは何故だろう。
俺とクロは顔を見合わせる。
その隙に、すぐそこまで迫っていた魔物達は一斉にブレーキをかけ、その勢いで砂煙が思いっきり巻き上げられた。
「んおっ、どうしたのだ?」
「砂煙で何も見えませんね………」
「なぁクロ、この気配って………」
「ん。やつら」
完全に返り討ちにする気満々だったノエルと、俺の前に立ちはだかっていたアイリスが戸惑いの声を漏らす。
対して、接近してきた気配に覚えのあった俺とクロ。
俺より探知系に優れているクロがそう言うんだから間違いない。
『クルァ♪』
「うわっぷ!?」
「きゃっ!?」
やっぱりあの時、古城で出会ったプラトス達だった。
どうやらあの後、ちゃんと古城から脱出できたようだ。
砂煙を割いて勢いよく飛び出したプラトスが、びっくりして後退したアイリスを押しのけ俺に頬ずりする。
『クルッ、クルァ!』
おお?なんかすごい人懐っこくなってるな。
残りの二匹のプラトスも加わり、合計三体のプラトス達に頬ずりされたり舐めたりされまくる。
しっぽがご主人様に甘えるようにブンブンと左右に振られているのが可愛らしい。
なんか犬みたいだ。
犬にしては大型すぎるけど。
正直三体に全体重をかけられたら、クロを背負ったこの状態で重心を維持できる気がしない。
「えっと、この子達は………?」
「古城に行った時たまたま会ったプラトス達。皆いい子だから、警戒しなくて大丈夫だよ」
まだ警戒して魔力を練ったままだったアイリスにそう説明すると、ほっとため息をついて、手に集まっていた魔力を破棄した。
ごめんごめん、先に説明しとけばよかったね。
たしかにそりゃ、いきなりプラトス達が突進してきたらびっくりするわな。
ノエルは…………もうすでに打ち解けて乗り回してるから大丈夫か。
向こうでプラトスの背に乗りながら「ヒャッハー!なのだ!!」しているので心配無用。
しっかし、タイミング悪かったなぁ…………。
頬ずりするプラトスをなでながら空を見ると、徐々に日が傾き始めている。
そろそろ帰らないと…………何せまだ夜ご飯作ってないからね。
村にあるお店で食べればどうとでもなるが、せっかく初めてアイリスとクロが家にやってくるのだ。
家でご馳走を振舞ってあげたい。
歓迎パーティーってやつだ。
だが、ご馳走を作るには時間がかかる。
今から超特急で頑張ったら、ギリギリ夜ご飯に間に合うかどうか。
……………まぁ、そこは何とかするとして。
てか今気がついたけど、今日から四人分食事を作るんだよな。
大変だぁ…………。
アイリスにも手伝ってもらおう。
「よしよ〜し。ごめんな、今日はそろそろ帰らないと行けないんだ。今度また遊びに来るから、その時な」
『………………クルァ!』
プラトス達に別れを告げるが、少しの間の沈黙を置いて、なぜかより身を寄せてくるプラトス達。
ノエルを乗せて走り回っていたプラトスも戻ってきて俺に擦り寄る。
「い、いや、頼むよ。もう帰って夜ご飯の支度しなきゃ行けないから…………」
「………………もしかして、真白について行きたいのか?」
『クルァ!』
頑として離れようとしないプラトス達に手を焼いていると、不意にプラトスの額に触れたノエルがそう問いかけた。
間髪入れず元気な良い返事。
あ、そゆこと?
「ふ〜む。俺的には問題ないけど…………皆はどう?」
「むしろウェルカムなのだ」
「大丈夫」
「はい、私も賛成です!」
どうやら満場一致でプラトス達も一緒に帰ることに賛成なようだ。
まだプラトス達が住む場所とか食べる物とかの問題はあるけど…………たぶん、なんとかなるだろう。
「……………よし、一緒に帰るか!」
『『『クルァ!』』』
そろって元気よく返事をして頬ずりするプラトス達をなだめ、俺は早速、転移魔法の準備を開始する。
いやー、まさか一日で二人と三匹の家族が増えるとは…………二百年生きても、人生って分からないもんだね。
クロ達に手を繋ぐように指示しながら、そんな柄でもない感慨に耽ける。
………………これでよしっと。
プラトス達を含め全員が繋がっているのを確認し、俺は転移魔法を発動する。
「じゃ、行くよ。【テレポート】」
そう唱えた途端、一瞬だけ視界がぐらりと揺らつき、次に目を開けた時には見慣れた村の景色が眼下に拡がっていた。
夜になりつつある時間帯ということもあり、所々に明かりの灯った村はとても綺麗だ。
初めてこんな大人数の転移したけど、無事に設定した座標に転移できたみたいでよかった。
さてさて。
珍しそうに視線を右往左往させる二人と三人の前で、腕を広げ、歓迎の意を示す。
「ここが皆の新しい我が家だよ。ようこそ、カディア村へ」
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