第13話 鑑定






「"極滅神聖砲ゴッド・ストライク"!!」




合わせたてのひらから一筋の輝きと共に純白の魔力が溢れ出し、次の瞬間、幾千…………いや、幾万ものエネルギー弾が流星群のように軌跡を描いて大地に降り注ぐ。



まるで太陽が間近にあるかのようにさえ感じるほどの眩しさだ。


不意に天を仰いだ魔物はその正体を知らぬまま粒子ごと消滅し、仮に運良く外れたとしても次々と降り注ぐエネルギー弾によって全てが消え去った。


魔物達に逃げ場は無い。



ただ轟音で地を揺るがす流星に蹂躙じゅうりんされるだけだ。

残りの魔物を一掃するのに五秒もかからなかった。

容赦のない圧倒的火力の暴力。



ノエル…………恐ろしい子!



「あまりにもオーバーキル過ぎる…………」



パキパキと凍った地面を転ばないように踏みしめながら、俺は向こうの焦げた焼け野原を見て苦笑い気味にそう呟く。

……………そこ、特大ブーメランとか言わない!



俺の居た所も大概だけど、ノエルの所はもっとやばい。

流星群に破壊された跡のクレーターがいくつもあるし、周辺一帯はほとんどが膨大な魔力に耐えきれず焼け野原。


もし今真上からここを見下ろしたなら、きっと時が止まったように静かに凍る大地と、全てが破壊され静まり返った黒焦げの大地という自然ではありえないコントラストが視界を埋めるのだろう。



しまった、張り切りすぎた。

こりゃ早く直さないと、村ができた時に支障しか起きないな…………。

特に道路の整備とかこんな状態でできるわけが無い。



「あ、真白真白ー!」



地面に降り立ったノエルが俺を見つけ、嬉々として駆け寄ってくる。



「見たか、今のワタシの技!かっこよくキメらればるん!?」


「ノエルーー!?」



ものすごく褒めて欲しそうな顔で焼け野原と氷の境界を渡った途端、慣れない凍った大地に足を滑らせて見事に顔面からダイブ。


結構シャレにならないレベルで痛そうな音がした。

ノエルは倒れたまま動かない。




「ちょ、ノエル大丈夫!?」


「………ふぐ……真白ぉ…………」




慌てて駆け寄って体を抱き起こすと、涙目のノエルが弱々しく俺の袖を引っ張る。

あー、鼻先を思いっきりぶつけちゃったのね………。



見ると、顔面から転んだせいで鼻先が少し赤くなってしまっていた。

逆に顔面ダイブでこれしかダメージがない方がすごいのだが、とりあえずそれは置いておいて回復魔法をかけてあげる。


ペカーッとピンポイントに輝く鼻先。

光が収まる頃には赤いのも綺麗になくなった。



「これで大丈夫。もう痛くない?」


「ん。真白、ありがとうなのだ」

「どういたしまして」


「あと、ついでにお姫様抱っこもして欲しいのだ…………」

「お、おう」



んっ、と甘えるように両腕を突き出すノエル。

文字通り転んでもタダでは起きないらしい。


もちろん俺としては、こんなに可愛くお願いされたら断る理由なんて何一つない。


むしろ全力でウェルカムっす!



腰を曲げて軽々と抱き上げると、モゾモゾ体を動かして位置を調節したノエルが、だらしなく頬を緩ませながら俺の首に手を回して抱きついてくる。

その嬉しそうな顔と言ったらもう…………頬とか溶けちゃってるんじゃないかってくらい緩みに緩みまくってるし、眼も気持ちよさそうにとろんとなってる。


しかし、こんなにも緩い表情なのに、なぜかそれ自体が引力を持っているかのように俺の視線は引き寄せられてノエルに固定された。



彼女が少し動く度に揺れるきめ細やかな銀髪。

幼いながら整った顔立ち。

視線が合った者全てを引き込む水色の瞳。

間近の彼女の一挙一挙全てに見惚みとれるように。


そんな風に改めてノエルの尊さを感じていると。




「………………嬢ちゃん、えらく幸せそうな顔してるな」

「おおぅ…………シルバとネイ、いつの間に?」




急に横から声がかけられびっくりして顔を向けると、呆れたような表情のシルバとネイがそこに居た。



二人だけではない。

既に近くには村の住人ほとんどが集まっていて、変わり果てた大地を見ながら各々おのおの色んな感想を漏らしていた。

まぁ主に"ありえねぇ〜"系の感想だが。


それにしてもおかしいな、シルバに声をかけられるまで皆が近づいてるのに気が付かないなんて。

もしかして隠密得意な人とかいる感じ?



「いや、マシロ側の戦闘が終わってすぐ来たんだよ。気が付かなかったのか!?」

「あっはっはっ、さすがにそれは嘘でしょ。いくら何でもシルバ達が近づいてたら気が付くって…………………え、マジで?」


「マジよ。本当に夢中だったのね…………」



記憶を辿たどってみたが全く覚えがない。

まさか、ノエルに見惚れてて気づいてなかった…………?

え〜っと…………て事は、今までの見られてました?



「ああ、バッチリ見てたぜ。相変わらずラブラブで羨ましいこった」

「そうなのだ!ワタシと真白はラブラブなのだ!」

「ええ見てたわよ…………!まったく、人の気も知らないで平然とイチャイチャしちゃって!」



くっついていたノエルがさらに密着度を増して頬ずりしたことによって、周りの男達から嫉妬と羨望の視線が突き刺さる。

中には血走った目で呪詛じゅそみたいな言葉を呟く人さえも。



「…………マシロ、頼むから爆発してくれ」

「いや、頼まれても嫌だよ!?」


「くそぅ、俺なんてこの歳なのにまだ嫁さん一人居ないんだぜ!?当て付けか!?」

「リア充は滅べばいいと思う」


「散々な言い様!」





結局、ついには暴走し始めたリア充撲滅隊を落ち着かせる方が、魔物殲滅戦より時間がかかったのだった。






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