第10話
大学に入るまでに時間はいくらでもあった。
しかし、自由になっても、特にやりたいことなんてなかった。もし前向きに何かに挑戦したら、乃愛との高校生活がもう戻らないものになってしまう気がして、どうしても踏み出せなかった。
乃愛との想い出は、まるで薔薇のように美しく、触れたら棘が刺さって、心が痛い。
あまりにも退屈で、自分の部屋でただぼーっとしていたけど、ふと本棚の片隅にある一冊の本が目に入った。ずっと忘れていた。最後に会った日、乃愛から貰った一冊の厚い本を。
私は本棚から本を取り出して、懐かしい表紙を撫でる。
確か私はこの本がどんな本かも知らずに受け取って……。
時間なら腐るほどある。
たくさん勉強して、文章を読むのにも抵抗がなくなった。
私はベットに寝転んで、本のページをめくり、刻まれた文字の羅列を追い始めた。
何時間経っただろう。
私は物語の最後のページまで、一気に読み終えた。
ふたりの少女が離れ離れになる物語。
乃愛は私に何が伝えたかったのだろう。
そんなことを思いながら、あとがきを流し読みしていると、ページの最後から紙切れがひらりと落ちてきた。
紙切れは私の顔の上に落ち、その紙を手に取ると、走り書きのような字でこう書かれていた。
「お互い幸せになりましょうね。」
走り書きのような字で、はじめは気づかなかったが、この字には見覚えがある。乃愛の字だ。
乃愛はどんなに急いでいても、もっと丁寧な字を書いていたから、この少し雑な字には、とても感情がこもっているのだろう。
涙が出そうになったけど、それ以上に嬉しかった。乃愛はずっと私を想ってくれていた。
間違いなく乃愛は、私の唯一の特別だった。
潤んだ瞳で泣いていたし、笑っていたと思う。
「ねえ、乃愛。――どうして私たち、離れ離れになっちゃったんだろうね? 」
思わず呟いた。
返事なんて返ってくるはずもないのに。
言葉は虚しく消えていく。
でも、これで確信した。
またいつか、きっと会える。
それがどこになるかはわからないけど、お互い幸せになると約束したからには、絶対に。
だって、私の幸せは――
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