第9話
三学期になって、先生たちは三年生のゼロ学期という言葉をよく言っていた。
先生に従うつもりはなかったが、勉強をしていれば乃愛のことを考えなくてすむとわかってからは、ひたすら勉強ばかりした。
あっという間に高校生最後の年。
二年生のクラス替えが文理選択のクラス替えだったから、三年生でクラス替えはなかった。
毎日夜遅くまで勉強していたら、伊達眼鏡はいつの間にか本当の眼鏡になった。眼鏡が変わってしまったように、記憶も移り変わっていて、少しずつ乃愛のいない日常を受け入れ始めていた。
斑雪のように冷たい時間を埋めようと、学校では、二年生のときに仲良くなったクラスメイトと過ごしていた。しかし、放課後になると必ず一人で教室に残って、下校時刻になるまで勉強した。夕暮れのこの場所だけは誰にも邪魔させない。
その甲斐あって、私は皆から可能性がないと言われた都会の大学に合格した。一年前の私が乃愛に語ったような都会への憧れなんてものはとうになく、大学に行ったときそこに乃愛がいてくれたら、という一心で受験をした。
乃愛がいなくなってから、私はカレンダー通りの日々を紡いだ。そして、無事高校を卒業した。卒業式で泣いている人を見たとき、なんだかこの現実が、酷く他人事のように感じた。
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