第7話

一通りブランコを楽しんで、足を地面に触れる。その間乃愛は何も言わず、ずっと私を追って微笑んでいた。

乃愛はおもむろに口を開く。


「渡したいものっていうのは、これなの。」


彼女が鞄から取り出して差し出したのは、一冊の本だった。

ハードカバーの分厚い本だ。


「私そんな厚い本は読めないよ。本読むの苦手だし……。」


「あなたに読んでほしいの。返すのは何時でもいいから。」


彼女の瞳が夕日の光を吸い込んで、光を宿す。

その光が、私に断るなと訴えかけるようだった。

読むかどうかは別として、返すのはいつでもいいと言っているし、受け取るだけなら……。

私は彼女から渡された本を受け取った。


「ありがとう。本当に。」


彼女の瞳は何故か少し潤んでいるようにも見えた。


それから乃愛とは取り留めのない話をたくさんした。世界から人が消えて、二人きりになったようだった。このまま時間が止まってしまえばいいのに。



夏は日が長いけど、それでもだんだん太陽が沈んできた。


「暗くなってきたわ。そろそろ帰りましょう。」


と乃愛がセリフをなぞるように言った。


「じゃあさっきの図書館まで行って、そこでバイバイしよう。」


本当はこのまま帰った方が近いけど。これは私の時間の稼ぎ方だった。

図書館の前まではあっという間だった。


「じゃあここでバイバイだね。また学校で。」


「今日は本当に楽しかったわ。ありがとう。さようなら。」


「私も楽しかったよ!!」


と、姿が見えなくなるまで大きく手を振って、乃愛に別れを告げた。

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