第4話
乃愛との恐ろしく穏やかな日々は一日、一日と過ぎ去って、とうとう一学期の終業式の日になった。
周りは夏休みに浮かれていた。夏の青空、みんなの喋る声、机と椅子がガタガタという音――この狭い教室の中で何もかもがキラキラしていた。
ただ私を除いては。
私の全身は、“夏休みになったら乃愛に会えない”という気持ちで満たされ、まるで生き地獄にでもいるような気分だった。
だから終業式が終わって、みんなが帰ったあと、乃愛といつものように教室に残ることにした。
午後一時には床のワックスがけがあるから、校舎を出るようにと言われていたが、それまでにはまだ一時間ほどの時間がある。
たくさんの机が掃除のために廊下に出されていて、私たちは教卓のあった場所の近くで話をした。
「もう夏休みだね。あっという間だったなぁ。」
「そうね。あっという間だったわ。」
「乃愛は夏休みに何するの?」
「夏休みは毎年親戚の家で過ごすの。」
「そうなんだ。私は里帰りとかすることがないから、羨ましいなぁ。私、夏休みにも乃愛に会いたいんだけど、いつなら空いてる?」
「親戚の家にいく準備があったり、結構忙しくて……でも八月一日なら一日空いているわ。八月一日、覚えやすいでしょ?」
「確かに覚えやすいね。じゃあ八月一日、十一時にご飯を食べて学校の近くの図書館で! 宿題教えてね!」
「わかったわ。それまでにわからない問題は一通りまとめておくのよ。」
「はーい! 楽しみだなぁ!」
こうして夏休みに乃愛に会う約束をした。
それからこんな話もした。
「乃愛は進路ってもう決めてる?」
「まだあまり決めていないの。」
「そっか、乃愛はきっとどこでも行けるから大丈夫だよ。私はね、都会の大学に行きたいんだ。今の成績だと可能性は低いけどね。都会ってなんかかっこいいし、キラキラしてるし!」
「応援しているわ。勉強なら付き合うわよ。」
乃愛は慈しむような笑みを浮かべていた。
そんな高校生がするありきたりな会話で時間は午後一時の十五分前になった。そろそろ校舎を出なければならない。
「そろそろ帰ろっか。お母さんがご飯作ってるから家に帰らないと。」
「そうね。帰りましょう。」
私たちは廊下を歩いて、階段を下りて、校舎の門の前まで来た。私と乃愛は帰り道が反対方向だからここでお別れだ。途中何度か清掃業者らしき人達とすれ違った。
「じゃあ、またね! 今度は八月一日に。」
「ええ、またね。」
こうして私たちの一学期は終わった。
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