第3話
乃愛は私以外のクラスメイトとは仲良くしていないようだった。
ある日。自転車での通学中に、まあまあ派手に転んでしまい、病院に行ってから学校に行った日。
2限目の休み時間に教室に入ると、乃愛は自分の席で本を読んでいた。
私がいるときに本を読んでいることはなかったから、なんだか新鮮な気持ちになりながら、自分の席に向かう。
私が「おはよう!」と元気よく話しかけた瞬間、乃愛は即座に本を閉じて、「大丈夫? 何があったの?」と真剣な顔で私を心配してくれた。
私が遅れた経緯と擦り傷と軽い捻挫で大した怪我ではないことを説明すると、「本当によかった……。」と大きな瞳が酷く細くなった。
私は乃愛に、気になっていた本のことを聞いてみる。
「私の前では、本を読まないよね。」
「そうね。本は一人でいるときに読むものだもの。」
「私が来るまでずっと本を読んでいたの?」
「そうよ。」
「他の子と話したりはしないの?」
「いいのよ。友達はあなただけで。1人でいいの。」
その後は言葉に困って、曖昧な返事をしながら鞄を置いて、次の授業の準備をした。
乃愛にはどこかミステリアスというか、近づけない雰囲気があった。
それは彼女が容姿端麗で、才色兼備で、高嶺の花というのもあったけど、乃愛と話しているうちに、その違和感は少しずつ顔を出す。
まず、私は彼女の連絡先を知らなかった。
それ自体を変だとは思わない。今の時代、携帯を持ってない子は珍しいかもしれないが、私の友達にも持ってない子はいた。
しかし、家の連絡先を聞こうとしても、家の場所がどの辺りかを聞いても、彼女は歯切れの悪い返事をして、ほとんど教えてくれなかった。
乃愛はときどき、本当に天使のような振る舞いをして、私を翻弄した。
行ったことない場所に一緒に行ったと話してきたり。
未来のことをピタリと言い当てたり。
他の人なら不思議な子だなで終わっていたと思う。
でも私は、乃愛を神様に選ばれた特別な人間だとしか思えなかった。そんな素敵な人と仲良くなれたことが、嬉しくて仕方なかった。
そして、彼女は私の名前を一度も呼んでくれなかった。乃愛の中で私はずっと“あなた”と呼ばれた。
乃愛は私がいないとずっと本を読んでいるような人だから、元々人には興味がないのかもしれない。
ここまでくると、どうして名前を呼んでくれないの?なんて聞く勇気はなかった。
ただ一人になって、何も考えることがないときに、この事実を思い出してたまらなく寂しくなって、現実を脱け出すのだ。
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