第2話

始業式が終わり、最初のホームルームで、自己紹介の時間があった。

何となくやるような気はしていたが、私は自己紹介が苦手で、この時間が憂鬱で仕方なかった。


私にとって人懐っこさとは、人の好意に合わせることでもある。

相手の“ 好き”を表現するために、私が意図しない“私”は邪魔だった。

相手が考える“私”と、私が表現する“私”は、できるだけ同じにしたい。その方が私にとって都合がいいからだ。

私は流行りの音楽やドラマが好きだという無難な自己紹介をして、その後何人か話せる友達を作った。


人の自己紹介を聞くのは好きだ。

その人がみんなにどう思われたいのかが、言葉遣いで、内容で、垣間見えるのが楽しい。

全員分はさすがに覚えられなかったけど、彼女の自己紹介だけは一言一句聞き漏らさないと意識を集中させていたので、はっきりと覚えている。


彼女の自己紹介で、乃愛という名前を知った。

読書が趣味で、好きな食べ物は甘いもの。

そして、飼ってはいないけど、猫が好きらしい。


私は本を読むのが苦手で、ブラックコーヒーが好きで、猫よりも犬の方が好きで、何もかもが乃愛とは違っている。

でもだからこそ、もっと乃愛のことが知りたいと思った。



次の授業の話とか、提出物の話とか、そういう他愛ない会話が積み重なって、乃愛と私は友達になった。きっかけなんて些細なもので十分だった。



毎日ではなかったけど、放課後は教室で乃愛の好きなお菓子を食べながらお喋りしたり、小テストや宿題の勉強を一緒にしたりした。

ずっと一人で教室にいる方が好きだったのに、乃愛と過ごす夕暮れの時間は暖かくて、そんな日々が暮れないように、少しでも長く続けばいいなと思っていた。

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