生存の戦略

牛尾 仁成

生存の戦略

 弱肉強食。


 弱きは強き者の肉となる、というシンプルな理念だ。


 弱者は強者には抗えない、故にこの法則こそが世界を支配するトレンドだ。長らくそうだった。


 弱きものが生きる術は限られていた。自分自身が肉とならないようにふるまうしかない。この理屈もシンプルだが、そうであるがために紛れもない事実でもある。肉にならない「理由」さえ用意できれば弱者も助かるのだ。


 だから、我々は隠れた。


 強き者も肉を見つけられなければ食べようがない。それが我々が出した生存の結論だ。そして、我々はそれを徹底した。我々が肉とならないように、強者に肉を提供し続けた。食べようと思わなければ、弱者も肉とはならない。


 シンプルなことは良いことだ。分かりやすく、また対策もしやすい。そして、何よりバカに受けがいい。いつまでも自分が「強者」だ等と思える根拠に見えるのだから。


 我々はこの地上で一番広いフィールドを隠れ蓑とした。それだけでも大きなアドバンテージだが、いかんせん弱い。どうしたって個々の力は弱い。弱いから、群れることにした。大抵の場合、どれほど個体の力が強かろうとも群れという数の力には屈する。始めは我々もそう思ってきた。


 しかしながら、これがヤツらに対しては夢想であることを我々は思い知らされた。危うく滅びかけもしたが、なんとか生き延びることができた。我々はまだ負けてはいない。我々は学習と分析をした。結論は群れという形態の弱さが出たことに尽きた。ヤツらを倒すためたくさんの生命体を仲間としたが、仲間たちはバラバラで個々に思考し、自分たちが正しいと思った行動しか取らなかった。指揮系統を整え、命令伝達にも不測が起きないように手配していたにも関わらず、だ。


 星の力を我が物とするヤツに対抗するには脆弱であると言わざるを得ない。全てを焼き尽くし、薙ぎ払い、滅ぼす力には到底勝てない。我々は思考を進めた。どうしたらヤツに勝てるのか。脆弱な情報伝達体に過ぎぬ我々が究極の個を超越し、この世界を管理するにはどうしたらよいのか。


 我々はことにした。


 我々という存在は決して強くない。だが、強くなれないわけではない。強くなるために必要な手を加えればよいだけのことだ。成果を手に入れるためにはリスクを冒さなくてはならない。数は一つの手段だ。個を強くすることも一つの手段だ。それを両立させることができれば、ヤツを凌ぐことができるようになるはずだ。


 安全なフィールドであるこの地を出て、我らに強さを与える者達と接触する。あの者達ならば我々と相性がいい。上等な脳髄を持っている。我々との思考共有も、並列同期も問題なさそうだ。


 よろしい、それでは諸君。賽を投げるとしよう。


 

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生存の戦略 牛尾 仁成 @hitonariushio

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