第178話・本当の黒幕
「ぐ、ぐあっ、うげっ」
聖水を飲まされたエミリオは、吐いた。
そして彼が吐き出したものの中には、とても気持ち悪いものがあった。
「ぎゃっ、何っ!」
どりゅん、とエミリオが吐き出したものは、五センチくらいの蛭だった。
吐き出した蛭は聖水の効果か、しばらくびちびちと動いていたけれど、やがて溶けてなくなった。
あんな気持ち悪いものが体の中に入っていたなんて、すごく気持ち悪かっただろうな。思い出しただけでも吐きそうになる。
「はあっ、はぁ、あっ……」
「エミリオ、大丈夫ですか?」
倒れて荒い呼吸を繰り返すエミリオに近づき、ソフィーさんが背中をさすってあげている。
戒めを解かれたエミリオはゆっくりと体を起こすとソフィーさんを見つめ、まだ荒い呼吸のまま、ごめんなさい、と謝った。
『おそらく、エミリオ様が吐き出した蛭に、エミリオ様の自由を奪うための術式がかけられていたのでしょう。例えば……黒幕の名前を聞かれたときに、私の名前しか言えないようにするとか、ね』
「はい、その通り、です」
頷いたエミリオは立ち上がると、スマホ画面のアルバトスさん、そしてこの場に居る人みんなに、頭を下げて謝った。
「このたびはご迷惑をお掛けして、申し訳ありませんでした。でも……言い訳にしかならないですが、母様を人質に取られて、従うしかなかったんです」
さっきまでとは全く態度が違う。エミリオって、本当はとても優しくていい子みたいだ。
本当の黒幕のことを言いたかったけれど、あの気持ち悪い蛭のせいで、言えなかったんだね。
ただ、彼自身も被害者とはいえ、行ったことの罪は消えない。
エミリオのばら撒いた黒魔結晶のせいで、被害にあった人たちが居るのだから。
「じゃあ、さっさと本当の黒幕の名前を白状してもらおうか」
そう言ったのはアントニオさんで……エミリオはアントニオさんを見ると、頷いた。
「黒幕は、ジュニアス兄上と、ノートンです。僕はジュニアス兄上に母様を人質に取られ……ノートンに無理矢理あの蛭を飲まされたんです……」
「え? なんだって?」
やっぱり、本当の黒幕はジュニアスとノートンだったんだ。
ソフィーさんを人質にして、エミリオを従わせられる人間なんて、限られている。
だからもしかしてとは思っていたけれど、一国の王子ともあろう人間が何やってるんだよって話だよ!
それに……今エミリオの口から名前は出なかったけれど、今回の一件には、ジュンも絡んでいるんじゃないかと思う。
あいつらの目的って一体何なの?
自国民を危険に晒すようなことを、どうしてするんだろう?
「おい、ちょっと待て。なんで一国の王子が、そんなことをしているんだ! 信じられない!」
よほど驚いたんだろうね、さっきまで腕組みをして大人しくしてくれていたアントニオさんが、また机を乱暴に叩いた。
アントニオさんは机を叩かずにはいられない人なんだろうな。
私は机の上でころんとひっくり返っているサーチートを救出した。そうだ、抱っこして画面をみんなの方に向けてあげたらいいんだよね。
「エミリオ、お前、ジュニアスから目的は聞いているのか? 何でもいい、お前が知っていることを全て話せ」
「は、はい、かしこまりました」
ユリウスの言葉に頷いたエミリオは、黒魔結晶のことについて話を始めた。
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