第176話・身に覚えがありません
ころんと転がったサーチートのふかふかの白いお腹に、スマホが現れる。
『サーチートくん、どうかしましたか? 何かありましたか?』
「アルバトス先生ーっ!」
さっきまでアルバトスさんのことを悪く言われていたから、アルバトスさんの声を聞いてほっとしたんだろうね。サーチートは黒いつぶらな瞳から、ぽろぽろと涙を零した。
『おや、懐かしい顔が見えますね』
サーチートのお腹に現れたスマホに映し出されるアルバトスさん。
椅子に縛られたままのエミリオも含め、この場に居る全員でサーチートのお腹のスマホを――そこに映し出されるアルバトスさんを見つめていた。
みんな口々に、アルバトスだとか、これはどういうことだとか、騒いでいる。
『えーっと、ユリウス、これはどういう状態なんでしょう?』
画面越しでもみんなの視線に気づいているんだろう、困り顔のアルバトスさんが言った。
「ちょっといろいろとありまして……伯父上に連絡しました。伯父上、あなたは黒魔結晶事件の黒幕にされています」
『うわぁ、全く身に覚えがないことですねぇ』
「そうだよね! アルバトス先生がそんなことをするはずないもんね!」
のんびりとした口調でアルバトスさんが言うと、お腹のスマホをみんなに見せるためにひっくり返ったままのサーチートが言った。ひっくり返ったままプンスコ怒っているんだけど……もう可愛いしかない。写真撮りたい。
『一体、誰がそんなことを……』
「オブルリヒトの第二王子殿ですよ」
『おや、エミリオ様が? エミリオ様、私はそんなことをしていないのですが……どなたかとお間違えになっているのではありませんか?』
スマホ画面のアルバトスさんは、画面の向こうからエミリオを優しく見つめ、言った。
アルバトスさんに見つめられたエミリオは、画面の中のアルバトスさんを見つめながら、ガタガタと震えていた。
「どうして……死んだって、聞いていたのに……だからっ……」
ガタガタ震えながらエミリオが呟く。
どうやらアルバトスさんは死んだって聞かされていたみたいだね。
そして、エミリオにそう吹き込んだ人物が本当の黒幕ってことだ。
「その様子だと、アルバトスと一緒にユリアナも死んだと聞かされていたのか? そして、死んでいるのだから罪を擦り付けても大丈夫だとでも言われたってとこか……」
エミリオはスマホに映るアルバトスさんから、ユリウスに視線を移した。
「お前、本当に、誰なんだ……」
ユリウスはおびえるように自分を見つめるエミリオを見て、苦笑する。
「俺が誰かって話は……そうだな、お前の母親には、本当に驚かされたよ。この姿では初めて会ったっていうのに、息子の件で話があるから付いて来いと言ったら迷いもせずに頷いて付いてきた……。おかげで簡単に王宮から連れ出せたよ」
ユリウスがちらりとソフィーさんへと視線を向けると、ソフィーさんは胸に手を当て、軽くお辞儀をした。
ユリウスは次にエリザベスさんとローレンスさんへと視線を向ける。
「伯母上、それからローレンスさん、お二人ともおっしゃっていたことは正解です。そんなにわかるものなんですかね。今の俺を見て、ユリアナだってこと……」
ユリウスがそう言うと、エリザベス様とローレンスさん、それからソフィーさんとエリザベス様の旦那さんであるレイリーさん以外は、目を見開いてユリウスを見つめ、驚いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます