第172話・知合いですが?



「ところでよ……あぁ、もう、何から突っ込めばいいか、何から聞けばいいかわかんねぇっ!」


 エミリオの傷を治したアントニオさんは、頭をガシガシと搔きむしった。

 それから私を――正確には私が抱っこしているサーチートを指さし、「とりあえず、そいつは何だ!」と叫ぶように言った。


「ぼくの名前わわっ」


「えっと、この子はっ……私の従魔ですっ」


 いつもの通り歌いだしそうになるサーチートの口を押えてそう叫ぶと、


「じゃあ、お嬢ちゃんは誰だ!」


「私はっ、えっと……」


 あれ? サーチートは私の従魔って答えることにしたけど、私のことは何て答えたらいいんだっけ?

 混乱した私の方を、ユリウスの長い腕が引き寄せる。


「彼女はオリエ。俺の妻だ」


 私はユリウスの妻……うん、そう答えれば良かったんだよね。


「そして俺は、ユリウス。彼女の夫で、最近ビジードの冒険者ギルドで世話になっている冒険者だ。それはさっきも説明したな」


「あぁ、そうだな。で、お前らは、アルバトス・フェルトンと知り合いなのか?」


 あれだけサーチートが騒いだら、そりゃ気付くよね。


「ユリウスくん、ごめんなさい……」


 目を潤ませて謝るサーチートの頭を撫でて、ユリウスは頷いた。


「あぁ、知り合いだ。それがどうした?」


「どうして黙っていた!」


 バン、とテーブルを叩いてアントニオさんが言った。

 アントニオさんはきつい眼差しでユリウスを睨みつける。


「言う必要なんてないだろう。それに、アンタはアルバトス・フェルトンを信じようとしていたんじゃないのか?」


「そう思ったが、お前が今、それをひっくり返した。理由は、お前がアルバトスとの関係を隠していたことと、エミリオ王子と似ていることだ! エミリオ王子の言うように、アルバトスが黒幕で、お前もその仲間という可能性だってあるだろう!」


「アルバトス・フェルトンは断じて黒幕などではない」


 睨みつけてくるアントニオさんの視線を真正面から受け止めて、ユリウスが言った。


「そんなこと、信じられるか! そして俺にアルバトスの無実を信じられなくさせたのは、お前らだ!」


 アントニオさんがそう怒鳴り激しく机を叩いたとき、俯いていたエミリオがゆっくりと顔を上げ、ユリウスを見た。


「その姿……お前は、一体誰だ?」


 驚き目を見開いて自分を見つめるエミリオに対し、ユリウスは何も言わずにただエミリオの顔を見つめ返していた。

 何も言わないユリウスに焦れたのか、エミリオは私に目を向け、私が抱っこしているサーチートへと目を向ける。


「さっきのおかしな生き物……城の者たちが、小さいが恐ろしい針の魔物が居ると言っていた……それから、その針の魔物と一緒に居た女……」


 サーチートを見ていた目が、再び私に向けられる。

 私はエミリオを知らないけれど、彼は私のことを知っているみたいだ。


「ジュニアス兄上が言っていた……確か名前は……」


 うわ、名前まで知ってるの?

 ここで名前を出されたら、またいろいろと面倒なことになりそうだ。

 だけど、エミリオが私の名前を言おうとした瞬間、ユリウスがエミリオに近づき、その大きな手口を塞いだ。


「ジュニアスが、何を言ってたって?」


「ん、ぐぐっ」


 エミリオを見つめ、ユリウスは唇の端を持ち上げ、冷たい笑みを浮かべた。

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