第170話・犯人の少年
「さて、この犯人だが……」
ふう、と深いため息をついたアントニオさんは、光の翼の冒険者に、目隠しを取るように言った。
目隠しを取られた少年の瞳の色は淡い緑色で、私はこの少年の顔を見た瞬間、ユリウスを見上げた。
纏っている色の組み合わせは違うけど、ユリウスとこの少年は似ているような気がした。
混乱する私……だけどそれは私だけじゃなかった。
この場に居るユリウス以外の全員が、ユリウスと少年を交互に見つめていたのだ。
「その兄ちゃん、一体何者なんだ?」
そう言ったアントニオさんに、ユリウスは黙ったまま何も答えなかった。
ゴムレスさんが「うちの冒険者だ」と答えてくれたけれど、ゴムレスさん自身も驚いているようだった。
そして、今度はこの場で犯人の少年に似ているもう一人に、答えを求める視線が集まる。
「エリザベス様、どうしてビジードの冒険者が、この方に似ているんですかね?」
この方、と言葉にしたとき、アントニオさんは犯人の少年を見た。
エリザベス様は、「わからないよ」と首を横に振り、自分を落ち着かせるように深い息をつき、言った。
「この子は私の甥でね……オブルリヒトの第二王子で、エミリオというんだ……」
「え?」
わけがわからない。今私たちは、黒魔結晶を持っていた犯人を前にしているはずだ。
それなのに、その犯人の少年が、オブルリヒトの王子? 一体どういうこと?
「嘘だろ、おい……なんでそんなこと……なんで王子様が、黒魔結晶なんて持ってんだよ」
ゴムレスさんの呟きを聞いて、犯人の少年――エミリオは俯いた。
口にはまだ猿轡をしているから、彼は話すことができない。
代わりに口を開いたのは、アントニオさんだった。
「この方がいうには、ある男に指示されたらしい」
「ある男って?」
「アルバトス・フェルトンだ」
「え?」
信じられない名前を聞いて、私は目を見開いた。
「アルバトス・フェルトン……。俺たちの年代では天才と呼ばれた有名な男だ。双子の妹がオブルリヒト王に嫁いだこともあり、この王子様との繋がりもある。だから、このお方の言う通り、今回のことはアルバトスが仕組んだことなのかもしれない」
そんなはずない。アルバトスさんがそんなことをするはずがない。
アルバトスさんは今、シルヴィーク村を守る結界を維持するための人柱になっているから、村から出ることはできないし、エミリオがシルヴィーク村に来たこともない。
そう叫んでアルバトスさんの無実を訴えたかったけれど、それを口にするには、ユリウスのこと、私のこと、シルヴィーク村の現状など、いろんなことを説明しなければならない。
「アントニオ……そんなはずない……アルバトスはそんなことをする奴じゃないぜ」
首を横に振りながらそう言ったのは、ゴムレスさんだった。ローレンスさんも頷き、発言する。
「そうですよ。確かにアルバトスは頭の良い人間でしたが、だからこそ、こんな意味のないことなど、決してしませんよ」
アントニオさんは、「やっぱ、そうだよなぁ」と呟くと、困ったように笑い、ゴムレスさん、ローレンスさん、クラウドさんの三人を見た。
「俺もそう思った。だが、俺はあいつとそこまで親しかったわけじゃない。だから、お前らに来てもらったんだ。アルバトスと親しかったお前たちの意見が聞きたくてな」
「なるほど、俺が呼ばれたのはそういうわけだったのか」
納得した、とクラウドさんが頷いた。
「もちろん俺も、アルバトスがそんなことをするはずないと思う。ローレンスも言ったが、そんなことをして何の意味があるんだって話だよ。あいつは本当に優しい奴だし、自分の持っている力を他の奴らが暮らしやすいように使うことはあっても、傷つけるようなことに使うことなんてしないさ。逆にこんなことをしそうな奴は……」
クラウドさんは何かを言いかけて、口を閉ざした。
誰の名前を言おうとしたのかはわからないけれど、ゴムレスさんもローレンスさんもクラウドさんも、みんながアルバトスさんのことを信じていることを目の当たりにした私は、感動してちょっと泣きそうになってしまっていた。
信じあっている男性同士の友情って、いいよね!
「じゃあ、今度は王子様の話を聞くことにしようぜ」
アントニオさんはエミリオの猿轡を外すように光の翼の冒険者に指示した。
エミリオは何度か咳き込んだけれど、俯いたまま言った。
「僕に指示したのは、アルバトスだ……。アルバトスが全ての黒幕だ。本当、なんだ……」
「王子様は、この一点張りなんだよ」
アントニオさんは呆れたようにエミリオを見る。
もうアントニオさんの中では、エミリオの言っていることは嘘だということになっているのだろう。
だから次は、本当の黒幕を暴かなければならないんだけど、エミリオはアルバトスさんが黒幕なのだと繰り返すばかりらしい。
「アルバトスが全部悪いんだ! アルバトスが僕に、黒魔結晶をばらまけと、動物や魔物を狂暴化させるために使えと命令したんだ! アルバトスが! アルバトスが全部僕にやらせたんだっ!」
「嘘だ! 君は嘘をついている!」
アルバトスが悪いのだと繰り返すエミリオに反応したのは、私が抱っこしていたサーチートだった。
サーチートは私の腕から飛び出すと、エミリオの前にあったテーブルに飛び移って転がり、
「君はひどい奴だ! ぼくは絶対に君を許さないぞ! くらえ! チクチクアターック!」
と叫び、いつものふわふわの体を硬化させ、エミリオに体当たりしたのだ。
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