第169話・ガエールの街へ


 待ち合わせ場所である商都ビジードの東門の前までテレポートで向かうと、そこにはゴムレスさんだけではなく、リュシーさん、ローレンスさん、それから魔法屋のクラウドさんも居た。

 通常、商都ビジードの門は夜になったら閉じられるらしいから、彼らは門番に行って特別に外に出してもらったんだろう。


「え? オリエちゃんも来たの? って、サーチート、アンタも来たの?」


 私とサーチートがユリウスについてきたことを、リュシーさんだけでなく、ゴムレスさんたちも驚いていた。

 私も、リュシーさんが居ることもだけど、クラウドさんがこの場にいたことに驚いた。

 ローレンスさんは、商都ビジードの商業ギルドのギルドマスターだから、わかるんだよ。

 そしてリュシーさんも、通信機でユリウスを呼び出した手前、知らんぷりできないんだろうなぁと思う。

 わからないのは、クラウドさんだ。

 クラウドさんは、ゴムレスさんとローレンスさんと繋がりがあるっていう理由で呼ばれたのかな?


「俺が気になってるみたいだな」


 じっとクラウドさんを見つめていたから、私が考えていることがわかったんだろうね、クラウドさんが苦笑した。

 クラウドさん自身も、どうして自分が呼ばれたのかがわからないみたいだ。


「まぁ、行ってみればわかることだ。じゃあ、行くか」


「おう」


 そして、私たちはユリウスのテレポートの呪文で、ガエールの街へと向かう。

 一瞬でガエールの街の前に着いて、ゴムレスさんもローレンスさんもクラウドさんも、大喜びだった。


「おう、ユリウス! お前、便利だな! これからも頼むぜ!」


「断る! 今回だけだ! 俺を便利に使おうとしないでくれ!」


 ユリウスは嫌だと首を横に振ったけど、嫌がるユリウスが新鮮だったのだろう、ゴムレスさんは楽しそうに笑う。


 ガエールの街もビジードの街と同じように門が閉まっていたけれど、ゴムレスさんが門番の人に声をかけると、街の中に入れてくれて、すぐに一人の男性が近づいてきた。


「ゴムレス様、お待ちしていました。冒険者ギルドまで案内いたします」


「あぁ、悪いな」


「いえ、こちらこそ、こんな時間にお呼びして申し訳ありません。本当に申し訳ありません」


 男の人は何度も頭を下げると、自分がガエールの冒険者ギルドの副ギルドマスターで、テルロだと名乗った。

 テルロさんはすごく腰が低い人で、何度も頭を下げて申し訳ありませんと繰り返しながら、私たちをガエールの冒険者ギルトに案内してくれた。




 ガエールの冒険者ギルドに着くと、テルロさんは私たちを地下へと案内した。

 ビジードの冒険者ギルドにも解体室みたいな大きな地下室があったけれど、ガエールの冒険者ギルトも同じような作りみたいで、通された部屋は解体室のようだった。


「おう、来たか、ゴムレス! 遅かったな!」


 部屋に入って声をかけてきたのは、二メートル近い巨体のひげ面の男の人だった。

 この人は誰だろうと考えていると、テルロさんが、彼がガエールの冒険者のギルドマスターで、アントニオさんなのだと教えてくれた。

 アントニオさんの他に部屋に居たのは、冒険者っぽい男の人が三人と、エリザベス様、そして綺麗な白髪の五十台後半か六十台前半と思われる男性だった。


「ユリウス、来てくれたんだね。ありがとう」


 エリザベス様はユリウスに声をかけると、ユリウスの顔をじっと見つめ、小さく息をついた。

 エリザベス様、ユリウスにありがとうと言った割には、ものすごく困ったような表情をしているんだよね。どうしたんだろう?


「紹介するよ。こっちが私の旦那で、レイリーだよ」


 エリザベス様の隣に居た白髪のロマンスグレーは、エリザベス様の旦那様らしかった。レイリーさんは、


「初めまして、レイリー・ディアスです。ガエールの商業ギルドのギルドマスターをしております」


 と優しい笑顔で挨拶してくれた。素敵なおじ様だ。

 エリザベス様は続けて、三人の冒険者を紹介してくれた。


「彼らはガエールのAランク冒険者だ。この子たちも孤児でね、子供の頃から知っている子たちさ」


 紹介された三人は全員二十代後半くらいの年齢で、剣士でリーダーのゲルダさん、同じく剣士のイージスさん、魔法使いのロナンさんだった。

 彼らは光の翼というパーティーを組んでいて、本当ならあと二人仲間が居るのだそうだ。


「さて、今日みんなに集まってもらったのは、例の黒魔結晶の件だ」


 挨拶が終わると、アントニオさんが声を上げた。


「ガエールではずっと、黒魔結晶を持つ男の捜索をしていた。黒魔結晶を持つ男は、それを動物や魔物に突き立て、狂暴化させていたんだ。そして先日、ゲルダたち光の翼の冒険者たちが、その男を捕まえたんだ」


 アントニオさんが視線を光の翼の三人に送ると、彼らは奥の部屋から目隠しと猿轡をした、褐色の肌に金茶色の髪一人の男を連れて戻ってきて、椅子に座らせてロープで椅子に縛り付けた。

 連れてこられた男は若く、多分年齢は十代後半の少年なんじゃないかなと思う。

 髪の色は違うけれど、褐色の肌だから、どことなくユリウスに似ているなぁなんて考えていると、私の隣に居たユリウスが、「まさか……」と呟いた。


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