第168話・呼び出し
ユリウスにリュシーさんから連絡があったのは、その日の夜のことだった。
ユリウスが持っている通信機の緑の魔結晶が光り輝き、リュシーさんから通信が入ったことを告げたのだ。
今ユリウスの通信機は魔結晶が光ることで着信があったことがわかったけれど、光ではなく音にすることもできるんだよ。
ちなみにアルバトスさんが持っている通信機は、小鳥の鳴き声になっている。
「ユリウス、かかってきたね! 出てみてよ!」
「あぁ、そうだね」
ユリウスが緑の魔結晶の部分を台座に押し込み、
「リュシーか?」
と声をかけると、一瞬間があったけれど、『そうだよ』と声が聞こえた。
リュシーさんの声なのは多分間違いないけれど、ものすごく低く、暗く聞こえる。何かあったのかな?
『あのさ、ユリウス……頼みがあるんだけど……』
「頼み? 何、だ?」
ユリウスの眉が顰められる。ユリウスも、リュシーさんの声のトーンから、何かあったんじゃないかと推測したようだった。
「オリエちゃん、どうしたの?」
近づいてきたサーチートとアルバトスさんに、唇に人差し指を当てて静かにするように合図を送ると、二人とも口元を押さえ、頷いてくれた。
リュシーさんの様子がおかしいから、ユリウス以外は話さない方がいいかもしれない。
「リュシー、俺に何を頼みたいんだ?」
『うん、実はさ……あぁもう、騙して呼び出すなんてアタシには無理! あのさ、ユリウス! さっきガエールの冒険者ギルドから連絡があって、ゴムレスさんたちに大至急ガエールの冒険者ギルドまで来てほしいって言ってるんだって! そんでもって、アンタにガエールに送ってもらいたいんだって! アタシ、ゴムレスさんに通信機持っているのバレてさ、頼んでくれって言われたの! ごめん!』
「は? 俺を馬車扱いするっていうのか?」
ユリウスがイラっとする。そりゃそうだよね。いくらユリウスがテレポートの呪文が使えるからって、夜に呼び出すなんてひどいよね!
「そんなの、ことわ……」
断る、とユリウスは言おうとしたんだけど、それを遮った人が居た。リュシーさんに渡した通信機から聞こえたのは、ゴムレスさんの声だった。
『おい、ユリウス! 別にいいじゃねぇか! 力を貸してくれよ! それに、今回のことはお前だって無関係じゃねぇんだ!』
「どういうことだ?」
『ガエールの冒険者ギルドで、あの黒魔結晶を持った男を捕まえたらしいんだ。俺たちはその件で呼ばれている。お前も気になるだろう?』
「それは……」
もちろん気になるだろう。私だってそうだ。
あの巨大熊の額に突き立てられた、邪悪な黒魔結晶。
それを持った男って、一体何者なの?
『この時間に呼び出された理由はわからないが、周りに知られないようにするためでもあるだろう……ユリウス、悪いが頼まれてくれ。東の門を出たところで待っている』
「あぁ、わかった……。すぐに行くから、待っていてくれ」
再び緑の魔結晶のボタンを押して通信を切ると、ユリウスは深い息をつきアルバトスさんを見つめた。
「ガエールの冒険者ギルドが、黒魔結晶を持った男を探しているとは聞いていましたが……ちょっと見に行ってきます。伯母上に会う可能性もあるかと思いますが……」
「多分、いらっしゃるでしょうね。あの方はいろんなところに首を突っ込まれますから」
「そうですね」
そうかぁ、エリザベス様もいらっしゃるのなら、危険はないのかな。
私もついて行こうと用意を始めると、同じく用意をしようとしたユリウスが、不思議そうな表情をした。
「オリエ、もしかして一緒に来るつもり? もう夜遅いよ? 眠くないの?」
「大丈夫だよ。だって、私だって気になるし……それに、聖水が必要かもしれないでしょ!」
この間ポーションを作ったときに、聖水も作ってたんだよね。
黒魔結晶を浄化するなら、聖水が必要になるはずだ。
そしてその聖水を作った私は、多分その場に立ち会ってもいいはずだと思う。
「ユリウスくん、ぼくも行くよ!」
サーチートがちっちゃい手を挙げた。
「え? どうして?」
「そうだよ、サーチート! もう夜だよ! 眠くないの?」
「眠くないよ! ぼくだって気になるもん! ついて行くよ!」
「えーっ!」
私はともかく、サーチートまで連れて行ってもいいのかな。
サーチートを止めてくれないかなとアルバトスさんを見たけど、アルバトスさんは優しく微笑み、頷いていた。
どうやら止めるつもりはないみたいだし、連れていくかな。
「では伯父上、ちょっと行ってきます」
「ええ、行ってらっしゃい。それから、ユリウス……」
「はい、何でしょう?」
「……あなたの判断に任せますから、好きにしなさい」
「え? はい……」
家を出る前、アルバトスさんが不思議な言い回しをして、私たちを送り出す。
一体どういう意味なんだろう?
すごく気になったけれど――今はそれを聞く時間はなかった。
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