第167話・急ぎの知らせ


「何の音だろ?」


 突然、カーン、カーン、と鐘を打つような音が聞こえた。

 どこから聞こえたんだろうとキョロキョロすると、


「すまないね、私だよ」


 と言ったエリザベス様が、今度は別の魔結晶を取り出した。

 今度の魔結晶は水色で、正方形の台座に埋め込まれている。


「すまないね、ちょっと失礼するよ。オリエ、サーチートを返すよ」


 エリザベス様は私にサーチートを預けると、簡易結界を解除して部屋の隅へと向かい、私たちに背中を向けて、再び簡易結界を起動させた。

 私たちに会話を聞かれたくないっていうことなんだろうな。


 先程エリザベス様が取り出したのは、通信ができる魔道具だ。

 一つの魔結晶を半分に加工して作るらしい。元は一つの魔結晶だから、それを一つずつ持つことで、通信ができるらしい。

 テレパシーみたいな通信魔法が使えない人でも、相手との会話ができるようになるらしいから、すごく便利だよね。携帯電話みたいだ。

 でも、結構高価なものらしいから、実際に持っているのは貴族や商人、高ランクの冒険者というところらしい。

 どうして私がこんなことを知っているのかというと、最近現物を見て、実際に使ったからなんだよね。


「リュシー、今のうちにこれを渡しておくよ。緑が俺、水色が叔父上に繋がるから」


 ユリウスがリュシーさんに、小さな箱を渡した。

 箱の中身は、今エリザベス様が使っている、通信ができる魔道具だ。

 長方形の台座に、緑と水色の魔結晶が埋め込まれている。


「え? ちょっと、これは?」


 エリザベス様を気にしつつ、リュシーさんが小声で言った。

 同じように小声でユリウスが説明する。


「連絡が取れないと困ることもあるだろうし、叔父上に渡すように言われたんだ。叔父上が、リュシーに糸の状態を伝えたいって……」


「なるほどねぇ。それは、アタシも知りたいかも。ありがとね、助かるよ」


 リュシーさんはエリザベス様を気にしているんだろう、ユリウスが渡した通信機の箱を、本棚の隙間に隠すようにしまった。


「席を外してすまなかったね」


 通信を終えたエリザベス様は、戻ってくると、ふう、と深い息をついた。


「いろいろと話がしたかったんだが、急いでガエールに戻らなければならなくなった。だから、今日はもう失礼させてもらうよ」


「そうですか。是非またお越しください」


「それで……ユリウス、すまないが、お前に頼みたいことがあるんだ」


「何でしょう?」


「ユリウス、お前は確か、テレポートの呪文が使えるんだろう? すまないが、私たちをガエールまで送ってほしいんだよ。頼めないかい?」


 ユリウスは断るかと思ったけれど、わかりましたと頷いた。


「すまないね、ありがとう……」


 エリザベス様は一瞬ほっとしたような表情をしたけれど、顔色が悪いような気がする。


「あの、大丈夫ですか?」


 声をかけると、エリザベス様は大丈夫だと笑ったけれど、何かがあったことは明白で――私たちはリュシーさんの店を出て、エリザベス様の願い通り、ガエールの街まで送って行った。


 引き止められるかもと思っていたけれど、そんな場合ではないのか、エリザベス様たちは私たちにお礼を言って、ガエールの街に消えていった。


 何があったのかは知らないけれど、悪いことがないといいなぁ。



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