第166話・エリザベス様は鋭かった



「ねぇ、ユリウス。そろそろお前の話を聞かせておくれよ。私がお前を気になっていることは、気づいているだろう?」


「そうなんですか? 全く気づきませんでした」


 エリザベス様の言葉通りだというのに、いけしゃあしゃあと答えるユリウス。

 エリザベス様は少しイラっとしたみたいだったけど、持っていたバックから緑色の魔結晶と思われる石を取り出すと、テーブルの上に置き、「起動」と言った。


「エリザベス様、これ、魔結晶だよね? 今、何をしたの?」


 エリザベス様の膝に抱っこされたままのサーチートが、私が聞きたかったことを聞いてくれた。


「おや、サーチートは賢いねぇ。そうさ、これは魔結晶だよ。そして、簡易結界を作る術式が組まれているのさ。今からここで、あまり人に聞かれたくない話をするから、他の者たちに聞こえないようにしたんだよ」


 エリザベス様はそう言うと、周りを見回した。

 今ここに居るのは、エリザベス様、私、ユリウス、サーチート、リュシーさん、ジルさん。

 ということは、ここに居る人たちには聞かれてもいいってことなのかな?


「ねぇ、ユリウス。お前、どこの生まれだい? 母親は誰なんだ? そして、父親は……」


 うわー! エリザベス様は思いっきりユリウスのことで突っ込んできた。

 リュシーさんやジルさんは、ユリウスの友人ということで、この会話を聞くことを許された、ということなのかな。


「俺は、孤児です。親は居ません」


 戸惑うことなく、すらすらとユリウスは言った。どうやらこういう設定で通す気らしい。

 私が緊張して身を固くすると、大丈夫だという意味だろう、ユリウスが優しく背中を撫でてくれた。


「では、親のことは何も知らないというのか?」


「はい」


「そうか」


 多分エリザベス様はユリウスの言葉を信じていないと思うんだけど、一旦は引き下がった感じかな。深い息をついて、続けた。


「お前はね、若い頃の私の弟にそっくりなのさ」


「エリザベス様の弟って……」


「この国の王だよ。フェルゼン・オブルリヒトだ。私は、お前はあいつの子供なんじゃないかと思っている」


「そんな……俺がこの国の王の子供かもしれないなんて……有り得ないですよ」


 ユリウスは否定したけれど、エリザベス様、正解です。ビンゴです。


「いや、他にも理由があるんだ。それは、お前がユリアナにも似ているってことさ」


「ぶっ」


 ジルさんの淹れてくれたお茶を飲んでいた私は、噴き出してしまった。

 横に座るユリウスも、さすがに驚いたのだろう固まっていた。


「なんてゆうかね、ユリアナを男にしたらこんな感じだろうなという姿が、今のお前なんだよ。ユリアナという子は男っぽいところがあったからね。よく、ユリアナが男として生まれていたら良かったのにと思ったものさ。そうだね、お前は弟よりもユリアナの方によく似ているよ」


「お、俺は、男なのですがっ……」


「わかっているよ。でも、本当によく似ているんだ。ユリアナが姿を消した今、お前が実はユリアナだったと言われても、信じられそうなくらいに」


「そ、そんなわけないでしょうっ……」


「そうだねぇ。そんなおかしなことが、あるはずないよねぇ」


 いいえ、エリザベス様。実は、そんなことがあるのです。

 エリザベス様は大正解されているのです。

 ただ、私たちは大正解されていますよと、お伝えするわけにはいかないだけで、ね。

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