第165話・エリザベス様とリュシーさん
「ところでエリザベス様、リュシーの店にきたのは、ジルさんから良い店があるってお聞きになったんですか?」
リュシーさんの店のことは、私とユリウスもジルさんから聞いたもんね。
だからエリザベス様もそうなのかなと思ってそう聞くと、エリザベス様は首を横に振った。
「いや、リュシオンの腕については、私も前から知っていたんだよ。それで先日リュシオンに会って、興味を持ってね。様子見がてら、買い物にきたんだ。リュシオンが元気そうで良かったよ」
「エリザベス様、先日はお世話になりました。気にかけていただいてありがとうございます」
リュシーさんはそう言うと、立ち上がってエリザベス様に深々と頭を下げた。
先日二人が会ったときに、何かあったのかなぁ。
「ユリウス、オリエちゃん、エリザベス様には先日の選定会でお世話になったんだ。俺の作った衣装を見もしないジュニアス……王子に、一言言ってくださったんだよ」
「選定会……」
ジュニアスがルリアルーク王の衣装を作れと命令したにも関わらず、出来レースだった選定会。
そう言えば、ローレンスさんに選定会のことを聞いたときに、もう片方……つまりリュシーさんの衣装を見もしないで決めてしまうのはどうかと言った人が居たって言ってたっけ。それが、エリザベス様だったんだね。
「ジュニアスに……ルリアルーク王として相応しい装備を作ったから見に来いと言われて、旦那と一緒に選定会に行ったんだよ。だが、あんなことになってしまって、リュシオンには本当に申し訳ないことになってしまった。すまなかったねぇ」
エリザベス様が謝ると、リュシーさんは首を横に振った。
「エリザベス様が謝られることじゃないですよ」
「いや、ジュニアスの伯母として、そしてあの子を止められなかった父親の姉として、本当に申し訳なく思うよ。それにね、自分に当てはめたら、私自身、あの日のジュニアスのことは許せないんだよ」
エリザベス様はぎゅっと拳を握りしめると、続ける。
「今回、ジュニアスはガエールの商業ギルドには声を欠けてこなかった。だが、声をかけられていたら、ジュニアスはアンタやローレンスにしたことと同じことを、ガエールの職人やうちの夫にしただろう」
ジュニアスってつくづく嫌な奴だな。
あいつがルリアルーク王って名乗るのは好きにすればいいって思うけど、あいつが次のオブルリヒト王だということにはゾッとする。
だってね、ルリアルーク王は、ぶっちゃけただ宣言したとしても、『自称ルリアルーク王』でしかないと思うんだけど、オブルリヒトの方は名実共にオブルリヒト王になっちゃうんだもんね。
この国の最高権力者がジュニアスになるだなんて、怖いよ! この国はそれでいいの? 大丈夫なの?
「ジュニアス王子が、次のオブルリヒト王なんですよね? あの……それでいいんですか?」
性格的に問題があると思うんですけど……というのは飲み込んでエリザベス様に聞くと、エリザベス様はため息をつき、首を横に振った。
「本音をいうなら、嫌だねぇ。ジュニアスが王になれば、他国に喧嘩をふっかけるんじゃないかと、不安になる。誰か他に居てくれればいいのだけどねぇ……」
そう言ったエリザベス様がユリウスを見つめる。
その目はまるで、逃がさない、とでも言うかのように、真っ直ぐにユリウスを見つめていた。
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