第162話・魔力糸


 ゴブリン探索に行った時、薬草もたくさん採ってきたから、暇つぶしも兼ねて大量のポーション作りをすることにした。

 どうしてなのかはわからないけれど、私がポーションや聖水を作ると、かなりの確率で上級か特級になる。

 だから、少し雑に作ったり、薄めたりして、買い取ってもらいやすい下級から中級のポーションを大量に作っていく。

 ポーションを入れる容器は、ビジードに行ったときに大量に買い込んだ分の他、アルバトスさんが作ってくれた。

 どうやって作るのかは知らないけれど、アルバトスさんって器用というか、便利な人だよね。

 お料理の才能はないけどね!


「オリエ、何か手伝おうか?」


「ううん、大丈夫だよ。ゆっくりしていて」


 ユリウスの申し出をやんわりと辞退すると、わかった、と頷いたユリウスは、窓の外へと目を向けてぼんやりと眺めている。

 ビジードから帰ってきて、ユリウスは少しこんなふうにぼんやりと考え事をすることが増えたようだ。

 多分、エリザベス様のことを考えているんじゃないかなと思う。ユリウスはエリザベス様に、いろいろと恩義を感じているようだったから。


 私と出会って、ユリアナからユリウスへと変化して、彼は私を助けるために、いろいろなものを捨ててきた。

 もちろん、今の彼に必要ないものとして捨てたものが多いだろうけれど、そんな中でエリザベス様の存在は、捨てたくなかったものの一つなのかもしれない、と思う。

 だけど、ユリウスは今の姿でエリザベス様と関わるつもりはないらしい。

 それは私たちの身の安全のためだけではなく、エリザベス様の身の安全のためでもあるんだろう。


 驚いたけれど、会えて嬉しかった。

 だけど、もう関わるわけにはいかない。

 だから、今の自分に興味を持たないでほしい。

 ユリウスの今の気持ちは、こんな感じじゃないかな。


「オリエちゃーん、ユリウスくーん、アルバトス先生が、手が空いたらちょっと来てほしいって言ってるんだけど、大丈夫そう?」


「うん、大丈夫だよー。もう少ししたら行けると思うって、アルバトスさんに言ってくれる?」


「うん、わかったよー!」


 ちょうど大量のポーションを作り終わったところだったから、片付けを終えた私たちはアルバトスさんの元へと向かった。


「ユリウス、オリエさん、あなたたち二人に魔結晶を作ってもらいたくて、お呼びしたんです」


「えぇ、構わないですけど……どのくらいの大きさと量が必要ですか?」


「そうですね、手のひらサイズのものを十個ほど作っていただけますか? それで足りると思います」


「はーい、ちょっと待っててくださいね」


 言われた通りの結晶を作って渡すと、アルバトスさんはそれをそばに置いてあった二つのタライの中に、ぼとぼとと入れた。

 中を覗き込むと、水に浸けられた糸みたいなものがあって、これが解体したスパイダーから採れた糸なのだと教えてくれた。


「スパイダーから採れたばかりの加工前の糸を、魔結晶とともに精製水で浸けこむことで、魔力を持つ糸ができるんじゃないかと、リュシーくんと試してみたんです。私の作った魔結晶で先に試した分が上手くいったので、あなたたちの分の糸も作り始めましょう」


「魔法の糸、ですか」


 すごいなぁ。リュシーさんがアルバトスさんに相談したかったことって、きっとこのことなんだね。

 リュシーさんはこの魔力を持つ糸で布を織って、私たちの服を作ってくれるらしい。

 どんなものが出来るのか、とても楽しみだ!

 ただでさえオーダーメードなのに、布から……ううん、糸から作ってもらえるなんて、最高だよね。


「すごいね、ユリウス! 魔力の糸で織った布って、きっとすごいものが出来るよ! リュシーさんって、すごいね! ものすごく楽しみだよ!」


 私がそう声をかけると、ユリウスも嬉しそうに頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る