第158話・頑張ったね、お疲れ様



 翌日、自分も家に残ってリュシーさんの手伝いをしたかったのにと不貞腐れるサーチートを連れて、オブルリヒト王国の残りの森へと向かった。

 結果は昨日と同じで、大きめの森なら五十匹くらい、小さめの森なら約二十匹くらいのゴブリンが居たけれど、普通のゴブリンばかりで、ホブゴブリンのような上位種は居なかった。


「伯父上は、他の森に上位種が居らず、ネーデの森にだけ上位種が居ることについて、どう思われますか?」


 家に戻って、アルバトスさんに今日の報告をしたユリウスは、アルバトスさんに意見を求めた。

 アルバトスさんは少し考え込んで、残念ですが、と言った。


「残念ですが、ネーデの森には、ホブゴブリンよりも上位種が存在していると思われます」


「伯父上、そう思われた理由を教えてください」


「理由は簡単ですよ。ネーデの森でゴブリンが急激に増えたこと自体が、一番の理由です。ゴブリンがこんなにも急激に増えたのは、ゴブリンの上位種が誕生し、それが計画的に増やしている可能性が高いのです。おそらくゴブリンジェネラル、いえ、ゴブリンキングが生まれている可能性があります」


 ゴブリンジェネラルに、ゴブリンキング? 何それ、すっごくヤバいんじゃないの?


「このことは、すでにゴムレスたちも気づいていると思います。ネーデの森は、商都ビジードにもガエールにも、そして国境を跨いで、ベルゼフ王国にも広がる森です。そのネーデの森で数を増やしたゴブリンたちが、どこから飛び出してくるか、不安で仕方がないでしょう」


 アルバトスさんは淡々と話を続け、私たちはそれを黙って聞いていた。


「だけど、ユリウスが行った今回の調査で、他の森では普通のゴブリンしか居なかったことがわかりました。しかも今回狩り尽くしています。いずれまたゴブリンは増えるでしょうが、ネーデ以外の森で何かが起こる可能性は低いということがわかりました。これでゴムレスたちは、ネーデの森に集中することができます」


 ユリウスを見て、よくやりましたね、と言ったアルバトスさんは、次に私が抱っこしているサーチートへ、とびきり優しい声で言った。


「サーチートくんも、怖かったでしょうに、よく頑張りました。ネーデ以外の森の調査がこんなに早く終わったのは、サーチートくんが怖いのを我慢して、ユリウスの調査に付き合ってくれたからです。サーチートくん、ありがとうございます。本当に偉かったですね」


「アルバトス先生ーっ」


 私の胸から飛び降りたサーチートが、アルバトスさんの元へと駆けて行き、飛びついた。

 アルバトスさんはサーチートを優しく撫でると、頑張りましたね、と何度も繰り返す。

 大好きなアルバトスさんに褒められたサーチートは、感極まったらしく、アルバトスさんに抱っこされながら、わんわん泣いていた。

 うん、そうだよね。サーチートは怖いのを我慢して、たくさん頑張ったよ。

 サーチート、お疲れ様。偉かったね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る