第157話・報告と注文



 オブルリヒト王国の森を巡ってゴブリンが居るかどうかを確かめようツアー、一日目終了。


「つーかーれーたー! 怖かったよー! でも、ぼくは頑張ったー! 頑張ったー! 頑張ったんだよー! アルバトス先生―! ぼく、ものすごーく頑張ったんだー!」


 シルヴィーク村の家に戻ってきた瞬間、サーチートは疲れたことと頑張ったことを猛アピールして、アルバトスさんの腕に飛び込んだ。

 アルバトスさんはサーチートの体を優しく撫でながら、頑張りましたね、とサーチートを労っている。


「あ、そうだ、アルバトス先生、これ、作ってくれてありがとう。可愛くてかっこよくて、ぼく、ものすごーく気に入っちゃったよ」


「そうですか、アルバトスくんに喜んでもらえて嬉しかったです。本当に可愛らしいですね! よくお似合いです」


 サーチートは照れたように笑うと、もう一度アルバトスさんにありがとうとお礼を言った。

 シルヴィーク村に戻る前に、蝶ネクタイの魔道具のスイッチは切られているので、声のサイズは普通になっている。

 もう家に戻ろうかということになったときに、サーチートを抱き上げたユリウスが、スイッチをオフにしたのだ。

 サーチートは蝶ネクタイの魔道具によって自分の声が大きくなっていたことに、全く気づいてない。


「ユリウス、それで、どうでしたか? 今日一日で、どれくらい回ってきたのですか?」


「半分くらいですね。残りは明日にする予定です。それなりに大きな森では、ゴブリンは平均五十匹、小さな森では平均二十匹くらい居ました。普通のゴブリンばかりで、じホブゴブリンなどの上位種は居ませんでした」


 ユリウスがアルバトスさんにそう言うと、ハーイ、とリュシーさんが手を挙げた。

 はい、リュシーくん、とアルバトスさんに当てられたリュシーさんは。言う。


「アタシ、明日は行かないんで、よろしく!」


「え? どうして?」


 サーチートがリュシーさんを見つめた。その目はずるいと非難する目をしている。

 サーチートはきっと、森に行きたくないんだね。


「どうしてって、スパイダーの解体をするからに決まってんじゃん〜! 明日で森の見回りを終わらせて、明後日にはゴムレスさんに報告に行くつもりなんだろ? アタシ、そのときに要らない部位を冒険者ギルドに売ろうと思ってさ」


 スパイダーの解体と聞いて、背筋に悪寒が走った。

 それに気づいたんだろう、リュシーさんがからかうように解体の方法を教えてあげようか、なんて言ったけれど、丁重にお断りした。蜘蛛の魔物の解体なんて、絶対にごめんだ。


「リュシーくん、私はお手伝いしますね。私、スパイダーの解体は初めてなので、楽しみです」


 アルバトスさんは、お手伝いするらしい。とても嬉しそうだ。


「アルバトスさんに手伝ってもらえるの、ありがたいよ。相談に乗ってもらうのと手伝ってもらうので、アルバトスさんの分の値段は、思い切り勉強させてもらうからね!」


「私、今は何の稼ぎもない完全な無職なので、それはとても助かります」


「え? 何? どういうこと? アルバトスさん、リュシーさんに何か注文したの?」


「実はですね、私、オーダーメードでリュシーくんに一着服をお願いしたんです」


「そうそう。お願いされたの! 元々、アタシがアルバトスさんに会いたかったのは、作った服や防具に魔法付与ができないかって相談したかったんだけど、試作品も兼ねてアルバトスさんの服を作ることになったの!」


「何それ、ずるい! 俺も欲しい! 俺も注文したい!」


「私も!」


「ぼくも欲しい!」


 あんなことがあったから、しばらくの間リュシーさんはスタイリッシュ・アーマー関係の仕事をしないと思っていたから言い出さなかったけれど、リュシーさんの作る服が欲しい気持ちは変わらない。

 しかも、オーダーメード? そんなの、欲しいに決まっている!


「でもリュシー、しばらく服を作らないんじゃなかったのか?」


「それは表向きの話だよ。周りにはしばらくは服を作るつもりはないというふうに見せかけるだけだ。だけど、アタシには作りたい理想の服があるから、その準備を進めているんだ」


「じゃあ、俺も一着頼みたい! もちろん、オリエのも!」


「ぼくもー!」


 サーチートが必死に叫ぶと、笑いが起こった。

 サーチートの服って、どんなのだろうね。


「オッケー、任せてよ。サーチートにも作ってあげるね。もちろん、お題はいただくけどね」


「構わない。元々、買うつもりでお金を貯めてたし」


 そう、一着五百万ルドで、ユリウスと私の分で一千万ルドだなぁって思ってたんだよね。

 まだそれだけ貯まってはいないけど、私の作るポーションはかなり高値で買い取ってもらえるから、貯められない金額じゃないはずなんだよね。


「そういや、一着五百万ルドとか言ってたっけねー。でも、スパイダー狩りも手伝ってもらったし、そんなに要らないわよ」


 ケラケラと笑うリュシーさんに、アルバトスさんは、貰っちゃったらいいのに、と煽っている。


「じゃあ、アルバトスさんの分も含めて、全員分で五百万ルドでいいよ」


「いいのか? 四着で半分だぞ」


「うん、いいんだよ。その代わり、明日もスパイダーを見かけたら狩ってきてよ」


「あぁ、了解した」


 四着で五百万ルド……確かに半額だけれど、それでも日本円にしたら五千万円くらいだ。

 お支払いする服の代金で、リュシーさんとジルさんの新居が買えちゃうんじゃないかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る