第155話・ゴブリン呼び寄せ大作戦



「さて、アタシの目的のスパイダーは、たっぷり狩った。ねぇユリウス、これからどうするんだい?」


 スパイダーを手に入れたご機嫌なリュシーさんは、楽しそうにユリウスを見つめた。


「次は、この森にゴブリンが居るかどうかの確認だな」


「それさ、どうやってやるんだよ。ネーデの森ほどじゃないけれど、この森だって広いだろ?」


 確かにこの広い森の中、ゴブリンを探して歩き回るのは、大変なんじゃないかな。

 ゴブリンが居たとしても、私たちが向かった方向と違う方向に移動する可能性もあるわけだし。


「ゴブリンが居るかどうかは、呼び寄せてみようと思ってる」


「え? どういうこと?」


 首を傾げるリュシーさんに、まるで任せろと言わんばかりに頷いたユリウスは、サーチートへと声をかけた。


「サーチート、君にプレゼントがあるんだ」


「え? 何?」


 プレゼントと聞いて、目を輝かせるサーチート。


「これだよ。伯父上に作ってもらった、サーチート専用の魔道具なんだ」


「アルバトス先生が作った、ぼく専用の魔道具!」


 それは、金色の金具に赤いリボンがついた蝶ネクタイだった。

 あれをサーチートがつけたら、ものすごく可愛いと思う。

 でも、あれは魔道具なんだよね? どんな魔道具なんだろう?


「おいで、着けてあげよう」


「うん! ありがとう!」


 嬉しそうにユリウスの元へと駆けていくサーチート。

 ユリウスがしゃがみ込んで、サーチートに蝶ネクタイ型の魔道具を付けてあげようとする……だけどそのとき、カチッという音が聞こえた。

 サーチート専用の魔道具……もしかしてあの音って、その魔道具のスイッチを入れた音?


『オリエちゃん! どう、似合ってる?』


 蝶ネクタイの魔道具を着けたサーチートが、ドヤ顔で振り返った。


「う、うん、に、似合ってるよ!」


 想像した通り、蝶ネクタイをつけたサーチートは、ものすごく可愛い。

 だけど……サーチートの声、大きくない?


『本当! 嬉しいな! ユリウスくん、ありがとう! 今日、おうちに帰ったら、アルバトス先生にお礼を言わないと!』


 サーチートの声は、やっぱり大きくなっていた。いつもの五倍は大きな声になっている。

 もしかして、あの蝶ネクタイって、マイクとスピーカーみたいな魔道具なの?


「ちょっとぉ! どういうことよ!」


 耳を塞ぎながら、リュシーさんがユリウスに向かって叫ぶ。


「ゴブリンを呼び寄せるために、伯父上にサーチートの声を大きくする魔道具を作ってもらったんだ。すごい威力だね」


「なんでそんなことしたのよ! てゆうか、あの子、自分の声が大きくなってること、気づいていないでしょ!」


 確かに、めちゃくちゃ声が大きくなっているのに、サーチート自身はそのことに気が付いていないようだった。

 私の前でポーズを取って、機嫌よく蝶ネクタイを身に着けた姿を見せつけていた。

 私は、可愛いね、かっこいいねってサーチートを褒めながら、ユリウスとリュシーさんの会話を聞いていた。


「サーチートが怖がるといけないからって、伯父上が、本人には声が大きくなっていることがわからないように作ったんだよ。それから、こんなことをしたのは……さっきも言っただろう? ゴブリンを呼び寄せるためさ。だってサーチートは、ゴブリンホイホイだからね」


「ゴブリンホイホイ? それ、一体っ……」


 どういうこと、とリュシーさんは聞きたかったんだと思う。

 だけどその言葉は、最後まで言うことはできなかった。


『うわあー! ゴブリンだぁー! 怖いよー!』


 突然、森の中から現れたゴブリンたちが、襲いかかってきたからだ。

 現れたゴブリンは二十匹から三十匹くらい……ゴブリンホイホイでありゴブリンに追いかけられるのがトラウマになっているサーチートは、怖い怖いと泣き叫んだ。


「大丈夫だ、落ち着け、サーチート! 例えどれだけのゴブリンが襲ってきたとしても、必ず俺が守ってやるから!」


『ユリウスくん! ありがとう!』


 襲いかかってきたゴブリンを斬り伏せるユリウスを、サーチートはキラキラと小さな黒い目を輝かせて見つめた。

 頼もしいユリウスに感動しているみたいだけど、ユリウスはサーチートを利用しているんだよね。


「オリエちゃん、もしかしてゴブリンホイホイって、そういう事?」


 ユリウスとサーチートを交互に見て、リュシーさんが言った。


「ちなみにユリウスは、ゴブリンキラーなんです」


「へぇ、ゴブリンホイホイにゴブリンキラーね。いいコンビだ」


 リュシーさんはそう言って笑うと、襲いかかってきたゴブリンをミスリルの斧で叩き潰した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る