第四章:ゴブリン・スタンピード
第154話・見回りに行こう
リュシーさんとジルさんがシルヴィーク村に来て、楽しく過ごした二日後、私とユリウス、そしてサーチートは、商都ビジードの東門を出たところでリュシーさんと待ち合わせをしていた。
これから四人で、ネーデの森以外にもゴブリンが居るのかを確認がてら、リュシーさんが必要だという蜘蛛の魔物を探しに行くのだ。
「ハーイ! おっはよー! お待たせー!」
明るい声でそう言って現れたリュシーさんは、大きくて不思議な色に輝く斧を背負っていて、腰にショートソードを差していた。
「この間見た時も思ったが、でかい斧だな……。それに、もしかしてミスリル製か?」
「え? ミスリルって……」
「本当に?」
ミスリルって、ゲームの世界でよく聞く特別な鉱石だよね。
驚く私たちの前で、リュシーさんは笑顔で頷いた。
「そうよぉ! ミスリルなの! 高かったけど、命に関わることだし、アタシ、ソロでやってたから、武器は良いのを持つことにしたの。ちなみに、こっちのショートソードもミスリル製よ」
ソロの冒険者ってものすごく危険だと思うんだけど、リュシーさんはソロでやっていけるだけの実力を持っているってことだよね。
ミスリルの武器も、ものすごく高いと思うんだけど、良く考えたらリュシーさんはスタイリッシュ・アーマーのオーナーだし、結構稼いでいるんだろうな。
「リュシー、今日はゴヤの森を見に行こうと思っているんだけど、それでいいか?」
「ん、それでオッケーよ」
「じゃあ行こうか」
いつもの通り、門から少し離れた人気のない場所まで歩いて行って、ユリウスのテレポートの呪文で目的地まで跳ぶ。
「アンタたちって、なんか本当に便利よね」
一瞬でゴヤの森に着くと、リュシーさんは感心したように私とユリウスを見た。
確かに便利だよね。自分でもそう思うよ。
「さてと、基本的にはリュシーの目的に付き合うつもりなんだが、この森にゴブリンが居るかどうかを確認しなければならないし、俺にも行きたいところがあるんだ。先にそちらを見に行ってもいいか?」
「いいけど、それ、どこなの?」
「以前この森で黒魔結晶を額に突き立てられた熊と戦ったことがあるんだ。その熊が居たと思われる洞窟があって、そこを先に確認しておきたい」
ユリウスがそう言うと、あぁ、とリュシーさんは頷いた。
黒魔結晶の件は、ジルさんから聞いていたのだそうだ。
「十日ほど前になるかな……俺とサーチートは、この森に来たことがある。ネーデの森ほどでなくとも、このゴヤの森にもゴブリンが居たんだ。その時は……目的はゴブリンではなかったからその洞窟の確認はしていなかったんだが……」
「オッケー、わかった。アンタは、その洞窟がゴブリンの巣になってる可能性があるって考えてるってわけだね」
「あぁ」
「わかった。そっちに先に行こう。洞窟って、いろんなモノが棲みつく可能性が高い場所だからね。それに、もしかするとゴブリンじゃないモノが棲みついているかもしれない」
「ゴブリンじゃないもの?」
他の魔物や動物がってことだよね? 一体何が居るんだろう?
まぁ、何も居なければ、それはそれでいいんだけどね。
ゴヤの森を進み、巨大熊の居た洞窟には、三十分くらいで着くことができた。
ユリウスが場所を覚えていたんだよね。
森の中に入ったら、方向なんてわからなくなっちゃいそうなのに、すごいよね。私は方向オンチだから羨ましい。
「あぁ、ここ、居そうな気がする」
リュシーさんはそう言うと、嬉しそうに洞窟の中に入って行く。
一体何が居るんだろう……何かものすごーく、嫌な予感がする。
そして、その嫌な予感は、見事なまでに当たったのだ。
「うぎゃあっ! 私、駄目! 絶対駄目! 無理ぃ!」
洞窟の中に居たのは、蜘蛛の魔物だった。それも、ものすごく大きな奴!
「アイアンスパイダーと、スティールスパイダー、見ぃつけた!」
足の長さを入れて直径二メートルくらいの巨大蜘蛛が、アイアンスパイダー。
スティールスパイダーはさらにあと一メートルくらい大きい。
虫が駄目な私は、ただ悲鳴を上げてユリウスの腕の中に居たのけれど、リュシーさんは慣れているんだろうね、大喜びしながら自慢のミスリルの斧を巨大蜘蛛へと振り下ろし、バキッ、ドカッ、グシャッと倒してしまった。
しかも、アイアンスパイダーとスティールスパイダーは、合わせて八匹も居たんだよね。
あれだけの巨大蜘蛛を簡単に倒してしまうって、リュシーさんって本当に強かったんだね。
でも、私には絶対に無理だよ。リュシーさん、役に立てなくってごめん!
「この洞窟、ゴブリンでなくて、蜘蛛系の魔物が棲みつこうとしていたみたいだね!」
リュシーさんの言葉通り、以前巨大熊が居たこの洞窟には、蜘蛛系の魔物しか居なかった。
「これだけ倒したら、いつもなら解体して必要な素材だけを持って帰るんだけど、今日はユリウスが居るから丸ごと持って帰れるから、楽だよ」
リュシーさんは、容量は小さめらしいけどマジックバックを持っているから、いつもは倒した巨大蜘蛛を、そのマジックバックに入れられるだけ入れて持って帰ってたらしいんだけど、今日はリュシーさんが倒した分は、ユリウスが持ってあげていた。
その代わり、ユリウスが倒した分は、私が持つ。
ただし、虫は駄目というわけで、蜘蛛、駄目。
リュシーさん、本当に役に立てなくて、ごめん!
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