第150話・ユリウスの友達
「初めまして。アタシ、商都ビジードでスタイリッシュ・アーマーって店をやってるリュシオンです。親しい人には、リュシーって呼ばれています。ユリウスくんとは、仲良くさせてもらっています。あ、これ、お土産です」
クラウドさんの店を出た一時間後、私たちはリュシーさんを連れて、シルヴィーク村の家に戻っていた。
リュシーさんは今、いつもよりもきっちりした言葉遣いで、用意したお土産をアルバトスさんに差し出す。
アルバトスさんは穏やかに笑い、差し出されたお土産を受け取った。
「初めまして、リュシオンくん。ようこそいらっしゃいました。そして、ご丁寧にありがとうございます。あの、私もリュシーくんと呼ばせていただいても良いですか?」
「もちろんです! どうぞお呼びください! アルバトスさんにお会いできて光栄です!」
「ありがとうございます。私も、リュシーくんに会えて嬉しいです。少し緊張されているように見受けられますが……どうぞいつも通りリラックスしてくださいね。敬語とかも、必要ないですよ」
「ありがとうございます! んじゃ……そうさせてもらおうかな。ごめんなさいねぇ、アタシ、敬語使うの、あんまり上手くなくて」
「いやいや、いいのですよ。私は逆にこの口調が通常なのですが、リュシーくんは気にせずいつも通りにしてくださいね」
「ありがとうございます!」
「いえいえ。ところで……ユリウスがあなたをここに連れて来たという事は、リュシーくんはユリウスの秘密を知っているという事でいいでしょうか?」
アルバトスさんはユリウスとリュシーさんを交互に見つめ、ユリウスが頷くのを見ると、ものすごく嬉しそうにリュシーさんの顔を見つめた。
「ユリウスに、ジャンくん以外に心を許せる友人ができるなんて……生きてきた甲斐がありました」
「は? 伯父上、何言ってるんですか?」
「だってねぇ、ユリウスが自分で作った友人を家に連れて来て、私に紹介してくれたんですよ? 嬉しいじゃないですかー」
そう言ったアルバトスさんは、ハンカチを取り出すと目元を拭った。
演技かと思ったけど、どうやら本当に泣いているらしい。
親馬鹿炸裂……とも思ったけれど、考えてみればユリウスは特殊な環境で育ったから、心を許せる友人っていうのが出来にくかったのかもしれないよね。
そして、アルバトスさんはその事をずっと気にしていたのかもしれない。
「リュシーくん、なんのお構いもできませんが、ゆっくりしていってくださいね。ところで、ユリウス……」
「何ですか?」
「あなた最近、モネちゃんとジャンくんの買い出しに付き合ってないですよね? マルコルさんから手伝ってやってほしいと、依頼がありましたよ」
「それ、今からですか?」
「えぇ、是非とも手伝ってきてあげてください」
今戻って来たばかりのに? しかも、お客さんも居るのに?
だけど当たり前のようにアルバトスさんは笑顔で頷き、もう一度繰り返した。
「ユリウス、オリエさん、手伝ってきてあげてください」
「わ、わかりました」
「は、はいっ、行ってきます……でも……」
ちらりとリュシーさんを見ると、ひらひらと手を振っていた。
まぁ、リュシーさんなら私たちが居なくても大丈夫だとは思うけど、せっかくお招きしたのに申し訳ない気持ちになる。
「大丈夫ですよ、オリエさん。リュシーくんの事は、私がちゃんとおもてなしをしておきますからね! あ、そうだ、リュシーくん、今夜は泊って行ってください。夕食は……村の方に移動して食べましょう!」
「え? いいの? じゃあ、ユリウス! 買い物ついでに冒険者ギルドとうちの店とに寄って、ジルとガレアスさんに、今日は戻らないって伝えてきてよ!」
「え?」
そして私とユリウスは、否とは言えない謎の圧を放つ笑顔のアルバトスさんに追い出されるように、モネちゃんのお父さんが経営しているハロン商店へと向かった。
ちなみにサーチートは、ちゃっかり家に残っていた。
「ユリウス様、オリエちゃん、すみません、さっきお客さん連れて来てたでしょう? それなのに、買い出しを手伝ってくれるんですか?」
「あ、あぁ……」
「はい、お手伝い、しますけど……」
ハロン商店に向かうと、マルコルさんは私たちが来た事に驚いているようだった。
「あの、もしかして……急ぎじゃなかったんですか?」
「まぁ、手伝っていただけたらありがたいですが、別にお客様が来られている今でなくとも……明日とか……」
「そう、ですか……」
でもアルバトスさんから、すぐに行けって感じの圧をかけられたし……どういう事なんだろう?
「ユリウス、どうする? 戻る?」
今日はリュシーさんというお客様も来ている事だし、と言ったのだけれど、ユリウスは首を横に振った。
「いや、もういい。伯父上は何か考えがあって、敢えて俺とオリエを追い出したんだろう。リュシーから伝言を頼まれている事もあるし、このまま行こう」
「うん、わかった」
ユリウスがそれでいいなら、私もそれに従おう。
確かに、無理矢理追い出された感じだったけど、アルバトスさんには何か考えがあるのかもしれないし。
「マルコル、今夜、客人と一緒に食事に来るから、よろしく頼む」
「わかりました。お待ちしております。ではこちら、買い出しのリストです。モネに渡してください」
マルコルさんに夜の食事を頼み、買い出しリストを受け取った私たちは、モネちゃんを捜しに行った。
モネちゃんはハロン商会の隣にある食堂に、ジャンくんと居た。
「モネちゃん、ジャンくん、買い出しに行くよ~」
声をかけると、モネちゃんは明るい笑顔で振り返ってくれたけれど、ジャンくんは少し不機嫌そうだった。
「ジャンくん、どうしたの?」
「あぁ、気にしないでいいよ、オリエさん。ジャンね、ユリウス様がご友人を連れて来たのが、ちょっと面白くないのよ」
え? どういう事だろう?
首を傾げた私に、けらけらと笑いながらモネちゃんが続ける。
「ジャンったら、さっき来られたユリウス様のご友人にね、嫉妬しているのよ! 自分はユリウス様の友人にはなれないのにって!」
「え? どうしてだ?」
今度首を傾げたのは、ユリウスだった。
「ジャンは、俺の友人じゃないのか?」
「え? でも、俺とユリウス様とじゃ身分が違うし……俺は、どちらかと言うと、家臣……」
「確かに、ジャンやモネの家には、伯父上は俺の秘密を話していたし、昔からいろいろと協力してもらっていたけれど……別に家臣じゃないだろ。俺はジャンとモネの事……その……ちゃんと友人だと思っているけど、二人は違うのか?」
褐色の肌を少し赤く染めて、ユリウスが言った。
うわぁ、照れているの、すごく可愛い。
この表情、アルバトスさんにも見せてあげたいなぁ、なんて思っていたら、ジャンくんが滝のような涙を流していた。
「ユリウス様ーっ! 俺、嬉しいですーっ!」
「私も、ジャンくんの事もモネちゃんの事も、友達だって思ってるよ。だから、これからもよろしくお願いします」
「ありがとう、オリエさん。こちらこそ、よろしくお願いします!」
ジャンくんの頭を撫でながら、モネちゃんがぺこりと頭を下げる。
ジャンくんは余程嬉しかったのか、なかなか泣き止んでくれなくて、モネちゃんが渡したハンカチはびしょびしょになっていた。
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