第149話・アルバトスさんの友達



「アルバトス?」


 ぽかんとした表情でクラウドさんを見上げるサーチート。

 そんなサーチートに長い腕を伸ばし引き寄せると、ユリウスはサーチートの小さな口を塞いだ。

 ナイスだよ、ユリウス! サーチート、うっかりいろいろと喋っちゃいそうだもんね!

 でも私も、自分がアルバトスさんを知っている事を、クラウドさんに悟られないように気をつけないとね!


「おい、どうかしたか? そいつ、なんか苦しそうだぞ? 大丈夫か?」


 クラウドさんが、ユリウスに押さえつけられているサーチートを指さし、言った。

 ユリウスは頷いて私にサーチートを渡すと、


「で、ええと、この便利な魔道具は、クラウドさんの友達の人が考えたんでしたっけ?」


 と誤魔化すように言う。

 サーチートを受け取った私は、ユリウスの影に隠れて、クラウドさんにアルバトスさんの事を言っちゃ駄目だよ、とサーチートに小さな声で言い聞かせた。

 わかっているのかわかっていないのか、サーチートはうんうんと頷いた。ちょっと不安だ。


「あぁ、この便利な魔石回収アイテムはさ、アルバトスって俺の友達が考えたんだ。すごく頭のいい奴でさ、あぁいう奴を天才って言うんだろうな」


「天才、ですか?」


 そう言えば、ジュニアスのお付きの――確かノートンとかいう男が、すごくアルバトスさんに嫉妬してたっけ。

 本当にアルバトスさんって、すごい人なんだね。


「このアルバトスって奴がさ、頭がいい上に強くて人格者、おまけに顔までいいという非の打ち所のない奴でなぁ。俺はガキの頃、何をしてもあいつに叶わなかったよ


「うんうん!」


 アルバトスさんの事を言っちゃ駄目って言い聞かせたから、必死に口を押えながらサーチートが頷く。

 だけど、その目はキラキラしていて、話の続きを催促するようにクラウドさんを見つめていた。大丈夫かな?


「アルバトスのフェルトン家は学者の家系でな、俺たちがガキの頃、あいつの祖父さんや親父さんが週に一、二回、街の子供たちを集めて勉強を教えてくれていたんだ。俺も、奴の祖父さんや親父さんに、いろんな事を教えてもらったよ」


「へぇ~」


「アルバトスとは、パーティーを組んでたんだ。俺もあいつも魔法剣士でな、あと、冒険者ギルドのゴムレスと、商人ギルドのローレンスも一緒だった」


 おいおい、なんか知っている名前が出てきたぞ。

 どういう事だとユリウスを見ると、小さく首を横に振った。

 どうやらユリウスも知らなかったみたいだ。

 アルバトスさん、なんで教えてくれないのかな。

 この人は知っている人だ、くらい教えてくれてもいいのにね。


「十代後半から二十歳くらいまでは、あいつらといつもつるんでたな。この魔道具も、その頃にアルバトスが思いついて作ったものなんだ。ゴブリンの後始末をした後、魔石を拾うのが面倒でさ。でも、俺が怪我して、解散した」


「怪我?」


 頷いたクラウドさんは、軽く右腕を上げた。


「右腕をホワイトウルフに食いちぎられちまってな。ちゃんと治療をして、ラッキーな事に腕もくっついて、今では本当に食いちぎられたのかってくらい綺麗に治ったんだけど、握力が半分以下に落ちたんだ」


 全く剣が持てなくなったわけではなかったし、魔法剣士だったクラウドさんには、まだ魔法の道があったけれど、ご両親と恋人に泣かれて、冒険者として生きる事を諦めたのだそうだ。


「で、俺が魔法屋を始めたのは、アルバトスに言われたからなんだ。俺は昔から物を作るのが好きだったし、リハビリにもなる。それに魔法屋は、いずれみんなの役に立つ仕事になるからって」


「あぁ、この魔道具、すごく便利ですもんね。たくさん売れてそう」


 アルバトスさんも、こんなに便利な道具があるなら、もっと早く言ってくれればいいのにね。


「いや、それがな、この魔道具、売り出した当初は、便利だからそれなりに売れていたんだが、今はほとんど売れてないんだ。小さな魔物の魔石になんか、興味がない奴の方が多いからな。さすがのアルバトスも、売れ行きまでは読めなかったみたいだ。まあ、家庭用の魔石の販売で、なんとか生活できてるから、あいつには感謝しているけどな」


 少し寂しそうに言ったクラウドさんは、あいつどうしているかな、と続ける。


「その人、今、どうしているんですか?」


「さぁ、どうしてるんだろうな。パーティーを解散した後、あいつはシルヴィーク村に戻っちまったから、それきり会ってないんだ。俺もゴムレスもローレンスも、いろいろと忙しくてな」


「そう、ですか……」


「ま、とにかくこの魔道具は、アルバトスっていう俺の親友が考えたものだって話だ。兄ちゃんみたいにちゃんとゴブリンの後始末をする奴に、使ってもらいたい。もちろん、集めた魔石は、俺の店に持ってくるようにな!」


 クラウドさんはそう言うと、白い歯を見せて笑った。




「ねぇ、ユリウス……ちょっとお願いがあるんだけど……」


 クラウドさんの店を出ると、リュシーさんがユリウスを呼び止めた。


「なんだ?」


 少し首を傾げてユリウスが問うと、リュシーさんはユリウスの耳元で、小声で囁くように言った。


「さっきクラウドさんが言ってたアルバトスって人……あんたの伯父さん、だよね?」


「あぁ、そうだが……」


「あのさ、アタシ、ちょっと聞きたい事があって……アタシにアンタの伯父さん、紹介してくんない?」


「え?」


 驚くユリウス。もちろん私も驚いた。

 リュシーさんは一体何をアルバトスさんに聞きたいのかな?


「もちろん、いいよ! ぼくが紹介してあげる!」


 断る理由なんて何もないんだけど、ユリウスの代わりに返事をしたのはサーチートで、私たちは笑いながら頷いた。


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