第148話・魔法屋に行こう



「ハーイ、クラウドさん、お久しぶりぃ~!」


 クラウドさんという人の魔法屋は、リュシーさんの店、スタイリッシュ・アーマーから十分程の距離で、スタイリッシュ・アーマーよりも中央にあるギルド寄りだった。

 お店の大きさはスタイリッシュ・アーマーの三分の一くらいの小さいお店で、中に入ると、カウンターの向こうに一人男の人が居るだけで、お客さんは誰も居なかった。


「おう、リュシーじゃないか! 珍しいな、お前が来るなんて! そんでもって、なんかすげーの連れてるな」


「ふっふーん、すげーの連れてるでしょう~。この子ら、アタシのお友達なの~」


「ほぉ~」


 男の人――クラウドさんは、ユリウスと私を見て、楽しそうに笑った。

 赤茶色の明るい髪に、少し垂れ気味の金茶の瞳。

 魔法屋と言うから、魔法使いが着ているような、ズルズルのローブを着たおじいさんかと思っていたんだけど、四十代前半から半ばくらいの爽やか系の男の人だった。

 四十代くらいの人ってさ、今の私よりはかなり年上だから、おじ様ではあるんだけど、元の私からすると年下だからさ、ちょっと表現に悩む。

 でも、四十代前半って言ったら、アルバトスさんと同じくらいだよね。

 それに、ゴムレスさんやローレンスさんも同じくらいだ。

 もしかして、みんな知り合いだったりしてね。

 ちなみに、すげーのっていうのは、多分ユリウスの事だろう。


「こっちの、ルリアルーク王の色が完璧に揃ってる子が、ユリウス。そしてこっちのお嬢さんが、ユリウスの奥さんのオリエちゃん。それから、このちっちゃいのが、サーチート!」


 リュシーさんは私からサーチートを取り上げると、カウンターの上に乗せた。


「こんにちは~。ぼくの名前は、サーチートだよ~。オリエちゃんのスマホなんだ~」


「え? スマホ? 何だ、それ?」


 首を傾げるクラウドさんに、私は従魔ですと答えた。

 サーチート、自分はスマホって自己紹介するけど、スマホの説明が面倒なんだよね。


「まぁ、なんでもいいけどな。サーチートだっけ? 可愛いなぁ、こいつ」


「そうだよ、ぼくは可愛いんだ!」


 クラウドさんに抱っこされて撫でられて、ドヤ顔をするサーチート。

 うん、そういうところも可愛いし大好きなんだけど、ちょっとお調子者が炸裂しているね。




「で、何か用か? 家庭用魔道具の魔石のチャージか? それとも、何か買いに来たのか?」


 サーチートを撫でるのに満足したのだろう、クラウドさんはサーチートをカウンターに下ろすと、ユリウスを見つめた。


「知人にここで何か便利な物が買えると聞いたので、見に来たんだ。あと……手持ちの魔石の買い取りを頼みたい。ゴブリンの魔石なんだが、大量にあるんだ」


「ほう、どれどれ。ここに出してみろ」


 クラウドさんはユリウスに、二十センチ四方くらいの箱を渡した。

 渡された箱の中に、ユリウスは大きめの麻袋に入れていたゴブリンの魔石をジャラジャラと入れる。

 麻袋のサイズは、お弁当箱を入れる巾着袋くらいのサイズで、それが二つ。

 魔石の大きさは、形は若干違っているけれど、大体直径二センチくらい。

 あの麻袋の中に、どれくらいの数のゴブリンの魔石が入っているんだろう。


「すごいな、お前、よくこれだけ倒して、拾ったな」


 ユリウスが出したゴブリンの魔石を見て、クラウドさんが笑った。


「途中で面倒になって、拾わなかった分もあるけどな。で、これ、買い取ってもらえるのか?」


「あぁ、是非とも買い取らせてくれ。それから、これは俺からのプレゼントだ。これだけ真面目にゴブリンの後始末をして、魔石を持って来た奴、初めて見たよ。またしっかり後始末をして、うちに売りに来てくれ」


 クラウドさんがユリウスに差し出したのは、一センチくらいの水晶が三つ埋め込まれたブレスレットだった。


「クラウドさん、これは何?」


 カウンターに置かれたブレスレットに近づき、サーチートが首を傾げる。


「これはな、便利だぞー。おい、これを装備して、魔石回収って言ってみな」


「え? そうなの? じゃあ、よいしょっと」


「おいっ!」


「魔石回収っ!」


 多分クラウドさんは、ユリウスに装備するように言ったんだけど、サーチートがブレスレットを自分の首にかけて、元気に魔石回収と叫んでしまった。

 すると、先程ユリウスが箱に入れた大量の魔石が、一瞬でブレスレットの水晶の中に吸い込まれていく。


「うわぁっ、すごーいっ!」


「本当だ、すごいよ! ねぇクラウドさん、これ、どうなってんの!」


 大興奮するサーチートとリュシーさん。もちろん私も驚いた。


「すごいだろ? これはな、この水晶に時空収納の術式を施してあるんだ。マジックバッグの作る時の応用だな。あと、この水晶には魔石の魔力を感知する術式も施している。それで近くにある魔石を、魔石回収っていう命令で、回収、収納できるって事なんだ。魔法が使えない人間でも使える優れものなんだぞ」


「すごいですねぇ~」


 仕組みはよくわからないけれど、このブレスレットのような魔導具が、すごい魔道具という事だけはわかった。

 クラウドさんはまたサーチートを抱っこして先程魔石を入れていた箱の上に移動させると、「次は、魔石放出って言ってみな」と言う。

 サーチートは頷くと、可愛い声で、「魔石放出っ」と叫び、放出された魔石は再び箱の中に戻された。


「ねぇ、ユリウスくん! ゴブリンの魔石集めは、ぼくに任せてよ!」


 首に魔石回収のブレスレットを引っ掛けたまま、サーチートが胸を叩いた。

 ユリウスが頷くと、サーチートは嬉しそうに顔を輝かせ、クラウドさんはブレスレットをチョーカーに作り替えてくれた。


「クラウドさん、クラウドさん! これ、ものすごくいいよ! ありがとう! クラウドさんって、すごいね!」


 お礼を言うサーチートの頭を優しく撫でて、クラウドさんが笑った。


「すごいだろ? でも、この魔石回収の魔道具を考えたのは、俺じゃなくて、俺の友達なんだ」


「そうなんだ! そのお友達さんも、とーってもすごいね!」


「あぁ、あいつは、アルバトスは本当にすごいやつだよ。あいつ、今頃どうしてんのかなぁ?」


「え?」


 なんとなく予感はあったけれど、実際にクラウドさんの口からその名前が出ると、心臓が飛び出るくらい驚いてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る