第147話・え? 冒険者?
翌日、魔法屋に行くために再び商都ビジードを訪れた私たちは、ついでにリュシーさんの様子を見に行く事にした。
リュシーさんとベルさんの二人と話をしてから、まだ二日しか経っていないけれど、ユリウスがリュシーさんの事を気にしているみたいだからね。
ユリウスってば、リュシーさんの事が大好きなんだよね。本当に可愛いなぁ~。
「おや、いらっしゃい」
「ユリウスさん、オリエさん、この間はありがとうねぇ」
リュシーさんのお店、スタイリッシュ・アーマーを訪れると、店にはガレアスさんとソフィーさんご夫婦が居た。
「もう戻られていたんですね」
「えぇ。翌日には戻りました。その……リュシーさんも、落ち着かれていたので。あなたたちには、いろいろとお世話になりました。わしとソフィーは、お言葉に甘えて、ゆっくりさせてもらいました」
「もっとゆっくりしてきても良かったのに」
そう言ったユリウスに、ガレアスさんもソフィーさんも首を横に振った。
二人とも、休みを貰える事よりも、リュシーさんのお店で働いている方が嬉しいみたい。
「あ、ユリウス? 来たの? 上がってきなよ。ガレアスさんたちは、お店をお願いねぇ~」
私たちが店に来た事に気付いたらしいリュシーさんが、声をかけてきて、私たちは二階のリビングへと向かう。
「あれ? なんか、いつもと感じが違いますね」
リュシーさんはいつも下ろすかふんわりとまとめている金色の髪を、きっちりとひとまとめにして結い上げ、体のラインがわかりやすい動きやすそうな恰好をしていた。
あと、何故かリビングに、大きな斧とかショートソードが置いてあるんだよね。
今日のリュシーさんは、冒険者みたいだ。
「リュシーさん、今日は、冒険者みたいだね!」
私の疑問は、サーチートがそのまま口にした。
リュシーさんは、そうだよと言って頷く。
「どういう事だ?」
「どうもこうも……ほら、二十日後だっけ? あのクソ王子が、ルリアルーク王だっっていう宣言をするらしいじゃない! あの茶番で選んだアーマーを着てさ!」
「そ、そうだね……」
「でさ、アタシの作った衣装は選定会で、見られる事もなしに燃やされたって事も、広まってるわけよ! しかも、見る価値もない出来だったって言われてるの! なんかムカついてさ! だから、店はしばらくガレアスさんたちに任せて、私は冒険者に戻る事にしたわけよ!」
「リュシーさん、冒険者、大丈夫なの? 危ないよ?」
心配したサーチートに、大丈夫だとリュシーさんは頷いた。
確か昔、魔物に襲われて死にかけていたガレアスさんを、冒険者だったリュシーさんが助けたんだったっけ?
「実はアタシ、あと少しでBランクになれる、Cランク冒険者なのよ」
「本当? すごいね! あのね、ユリウスくんも、この間Cランクになったんだよ! じゃあ、二人とも次に目指すのはBランクだね! 早く上がれればいいね!」
きらきらした目で、サーチートはリュシーさんを見つめたけど、リュシーさんは首を横に振った。
「アタシ、Bランクには上がるつもりはないのよ。Bランク以上の冒険者となると、ギルドの依頼を強制的に受けなきゃいけない時があるからね。アタシは店もあるから、わざとBランクには上げてもらっていないのよ」
へぇ、そんなシステムになっているんだね。
ちらりと隣に居るユリウスを見ると、
「俺も絶対に上げないでおこう」
と呟いていた。
でも多分、ゴムレスさんが強引に上げようとするんじゃないかと思うんだけどね。
「だからアタシは、ギルドの依頼はあんまり受けずに、狩った魔物の解体や、自分が要らない素材だけを引き取ってもらってるんだよ。今、ちょうど新しい素材が欲しくてね、お金も貯めたいからさ。だから、暫くはこの店をガレアスさんたちに任せて冒険者稼業を復活させるよ」
新しい素材っていうのは、糸の事らしい。
アイアンスパイダーとか、スティールスパイダーとかシルクスパイダーとか……とりあえず蜘蛛の魔物から特殊な糸が採れるらしいんだけど、私は虫が苦手だから、ちょっと無理かも。
「あと、そろそろジルと結婚しようと思ってねぇ……」
「えー! おめでとうございます!」
「ありがと! でね、その資金を貯めたいんだよね」
リュシーさんは、ジルさんと結婚するにあたり、このスタイリッシュ・アーマーの近くに、家を買うか借りるかしたいらしい。
スタイリッシュ・アーマーはリュシーさんの店だけど、ここにはリュシーさんの他、ガレアスさんとソフィーさん夫婦も住んでいる。
ガレアスさんの足の事もあるし、リュシーさんが居ない間は二人に店を任せている関係で、自分がここを出て別の所で生活をする事を考えているのだそうだ。
「この事は、まだガレアスさんたちには内緒なんだ。気を遣わせちゃうしね、全部決まってから話そうと思ってる……。アンタたちも、内緒にしてよね!」
「わかりました!」
「ところでさ、ユリウス、アンタたち、アタシに付き合ってスパイダー狩るの、手伝ってくんない?」
「うーん、俺は別にいいけど……」
チラリと私を見るユリウス。
うーん……私は虫が駄目だけど……ユリウスが行くなら、ついて行くよ。
ただし、お手伝いはできないかもしれないけどね。
「今、ネーデの森は、ゴブリンが溢れてるぞ。リュシーが欲しいスパイダーって、どこにいるんだ?」
「ネーデでもゴヤでも、わりとどこにでもいるわよ。森の奥の方のでかい木のとことか、洞窟のとことかが多いわね」
「奥の方か……どうせいろいろ回るつもりだから、一緒に行くか。でもその前に、俺たち、行きたい所があるんだ」
「どこだい?」
「魔法屋。どの辺りにあるか、知っていたら教えてほしい」
「魔法屋かぁ~。OK、案内してあげるよ。アタシもちょっとクラウドさんに聞きたい事あるし」
魔法屋さんは、クラウドさんというらしい。
案内してくれると言うリュシーさんに連れられ、私たちは魔法屋を営むクラウドさんという人の元へと向かう事にした。
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