第144話・銀行にお金を預けよう


 商業ギルドに行くと、カウンターの受付のお姉さんが、銀行口座を作る手続きをしてくれた。

 商業ギルドでも、冒険者ギルドでも、身分証明書代わりのギルドカードがあれば、簡単に手続きできるらしい。

 元の世界でいうキャッシュカードのような機能をギルドカードにつけて、ATMのような魔導具――魔導銀行というらしい――でお金の出し入れをするのだそうだ。

 いやぁ、異世界って便利だね! 何でも有りだよね!

 手続きをしてくれた商業ギルドのお姉さんにお礼を言って、魔導銀行へと向かう。

 ではさっそく、先程貰った六十万ルド……金貨六百枚を入金してみよう!


「ポチっとな」


 魔導銀行の入金と表示されたボタンを押すと、ぽこんと穴が空いた。

 そこにじゃらじゃらと金貨を入れると、入金された金額と残高が、穴の隣にあるディスプレイに表示される。

 通帳はないけれど、魔導銀行って、そのまんまATMって感じだよね。

 さてさて、ちゃんと六十万ルドって表示されているかなと確認すると、入金金額は六十万ルドだけど残高が二百六十万ルドとなっていた。

 え? 一体どういうこと?

 何かの間違いかと思い、今度は試しに百万ルド下ろしてみることにする。

 ディスプレイで百万ルドを下ろすという入力をすると、金貨百枚か、大金貨十枚か、白金貨一枚かという選択肢が表示される。

 大金貨十枚を選ぶと、先程入金の時に使ったディスプレイの隣の穴がぽこりと開き、大金貨十枚が出金された。

 そしてディスプレイには、出金百万ルド、残高百六十万ルドと表示されている。

 うーむ……やっぱりこれって、六十万ルドしか入金していないのに、二百万ルド多くお金が魔導銀行に入っているみたいだ。

 これは私のお金だと思っていいのかなぁ。

 私は出金した百万ルドをもう一度入金し、残高が二百六十万ルドに戻った事を確認してから、魔導銀行から離れた。


「オリエ、時間がかかっていたけれど、操作、難しかった?」


「ううん、簡単だったよ。入金と出金を試していただけ。待たせてごめんね」


「いや、いいけど……。じゃあ、俺も行ってくるよ」


 魔導銀行に向かうユリウスを見送って、私は謎の二百万ルドの事について考えた。

 二百万ルド……口座開設時の特典とかじゃないよね? 額が多すぎるもん。

 それなら、一体何だろう?

 二百万ルド……日本円にすると、二千万円くらいか。

 ん? 二千万円? もしかして、老後のために必死に貯めた、元の世界の私の貯金か?

 だとしたら、金額的には合うけれどどうやって異世界の銀行口座に入金されたんだろう……。

 不思議で堪らなかったけれど、私はすぐに考えるのを止めた。

 ただ、ラッキーと思う事にしたのだ。




 魔導銀行にお金を預けて商業ギルドを出ると、街では

号外がばら撒かれていた。


「二十日後だ! 二十日後にジュニアス様が、宣言される! 自分こそが現世のルリアルーク王だと、世界に向けて宣言されるのだ!」


 号外をばらまきながら、男が高らかに叫ぶ。


「ジュニアス様、万歳! 新たなルリアルーク王、万歳! ほら、アンタたちも読んでみて!」


 目の前に差し出された号外を思わず受け取ってしまった私は、それに目を通した。

 号外をばら撒いている男が言う通り、そこには二十日後にジュニアスが世界に向けて、自分こそがルリアルーク王だと宣言する事が書かれていた。


「宣言ねぇ……そんな事をして、どうなるんだ……」


 後ろから号外を覗いたユリウスが、呆れたように言う。

 彼は号外を私の手から取り上げると、ばら撒かれる号外を必死に掴もうとしていた子供に渡し、言った。


「オリエ、帰ろう」


「うん、そうだね」


 私とユリウス、そしてサーチートは、ばら撒かれる号外に狂喜乱舞する商都ビジードの人たちの間をすり抜け、一番近い門へと向かうと、門の外に出てすぐにテレポートの呪文でシルヴィーク村に帰った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る