第139話・リュシーさんの元へ


 スタイリッシュ・アーマーは店を開けていたけれど、お客さんは一人も居らず、ソフィーさんが心細そうにカウンターの奥に座っていた。


「あなたたち……」


 ソフィーさんは私たちを見て立ち上がると、カウンターの後ろにあるドアを開けて、旦那さんであるガレアスさんを呼び、ガレアスさんは私たちを見ると、義足を鳴らして近寄って来た。


「あの、ユリウスさん、一体王都で何があったんでしょうか?」


「知らないんですか?」


 頷くガレアスさんとソフィーさん。二人は不安そうな表情で、縋るように私たちを見つめる。


「俺たちも、詳しい事を聞いたわけじゃないが、予想以上の良くない事があったらしい」


 ガレアスさんたちを気遣ったのだろう、ユリウスは詳しい事を知らないふりをした。


「ガレアスさん、ソフィーさん、リュシーはどうしていますか?」


「一昨日の夜、ものすごくお酒を飲んだ状態で王都オブリールから戻って来て、ずっとジルちゃんと部屋に……」


 酔っぱらった状態で帰って来て、そのままジルさんと二人……そりゃあ、何かがあったという事はわかっても、聞ける状態じゃないだろうね。

 それに、ガレアスさんとソフィーさん夫婦の部屋は二階のはずだけど、二階はトイレやお風呂もあるから、気まずいだろう。

 ユリウスは小さく息をつくと、わかりましたと頷いた。


「俺がリュシーと話をします。だからその……お二人は、今日はもう店を閉めて、三日ほどこれで宿に泊まってもらえませんか?」


 ユリウスは金貨を何枚か取り出すと、ガレアスさんに渡した。

 受け取れないというガレアスさんに、ユリウスは首を横に振る。


「これは、リュシーのためでもあるんです。リュシーも、みっともない姿を、あなたたちに見せたくないと思います。三日ほどしたら、落ち着くと思いますから。それに、リュシーが落ち着いたら、また忙しくなるかもしれない……そのためにも、あなたたちも活力を養ってきてください」


 ガレアスさんとソフィーさんはだいぶ悩んでいたけれど、頷いて店を閉めた。


「ユリウスさん、オリエさん、リュシーさんをお願いします」


 何度も何度もリュシーさんの事を私たちに頼む二人は、リュシーさんの事を自分の子供みたいに思っているのかもしれない。

 大丈夫ですよ、任せてください、とこちらも何度も繰り返して、私とユリウスは二人を送り出した。




「さてと、どうするかな」


 少し困ったように、ユリウスが言った。

 二階に上がったけれど、リュシーさんもジルさんも居ないみたいだ。

 という事は、二人でリュシーさんの部屋に居るんだろうけど……多分、そういう事をしているはずだろうね。

 ビジードに戻っても、リュシーさんの中で怒りは収まっていないのだろう。

 そして、ジルさんは自分の全てで、今のリュシーさんを受け止めようとしているんだろうな。

 今のジルさんの気持ちを考えると、ものすごく胸が切なくなった。

 自分の体の事なんて構ってられないくらい、リュシーさんを抱きしめずにはいられないんだろうな。

 その気持ち、わかる。きっと、傷ついた大切な恋人を抱きしめずにはいられないんだよ。


「リュシーの部屋に、行くしかないよな」


「うん、そうだね」


 気まずいけれど、話をするには部屋から出て来てもらうしかないよね。

 待っていてもいいけれど、二人がいつ出て来るかわからないし、ジルさんの体も心配だし。


「なぁ、オリエ。もしかすると、リュシーの返答次第では、もうこの店……いや、商都ビジードにも来られなくなる展開になるかもしれないんだけど、いいかな?」


「え? どういう事?」


 首を傾げる私に、大丈夫だとは思うんだけどね、とユリウスは苦笑する。

 一体ユリウスが何をしようとしているのかはわからないけれど、私はいいよと頷いた。

 私は何があってもユリウスと一緒にいるつもりだし、ユリウスと一緒ならどこででも生きて行くから。



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